AAD★八本足の星のツボ。
水と陸の割合が半々で凹凸が多いながらも気候は穏やかなハチク星に人型生命体は存在しないが、水辺ではタコ型や蟹型や海老型、陸には蜘蛛型や蠍型等の知性を持つ生命体が気ままに生活していた。
しかし、宇宙からの侵略者が宇宙港を建設してからは水質汚染に森林破壊と、勝手にやって来た異星人にやりたい放題され捲り……
ついにキレた水陸両ハチク星人が、異星人の追い出しに手をとった。
それまでも互いの言語や文化交流は幾らかあったが、まるで干渉する事の無かった生活圏の違いに互いの生活圏の紹介に興味は景色の映像作品に美を求めるのみ。
当然、観光用に互いの移動手段を開発していく過程で水陸両用服が生まれた。
そういった観光用に開発された物が今や異星人撃退の兵器開発へと変貌し、優しさや思いやりは競争本能の憎悪や怒りに攻撃的に向かっていく。
気付けばハチク星人はかなり鋭く攻撃的な性格へと変わっていた。
そのハチク星の兵器開発の場は今、異星人があまり入らない水中深くで行われている。
陸の方では宇宙港の監視と、異星人の乗ってきた宇宙船の解析にとスパイ行為が主な役割になっていた。
タコ型ハチク星人のワナカと、蜘蛛型ハチク星人のMJはスパイの中のトップ2だった。
ワナカは侵入のプロ、MJは上部監視から内部へとスナイパーの役割も果たす。
陸のスパイ本部は、蜘蛛型ハチク星人の花魁館。
上官は勿論だが女郎だ。
そのトップ2に指令が入る。
【MACベイ戦艦にある例のツボを手に入れろ!】
「女郎、それってアノ悪名高い災妻が裏で糸を引いてるって噂の船ですか?」
「ああ、トジミン星人から奪ったっていうアレか?」
MJとワナカの反応に女郎が顔を曇らせる。今回の作戦の不安を覗かせるが、指令が出た以上やる他に無い。
MJが作戦の根幹に疑問視を向ける。
「女郎、MACベイ戦艦のツボの話は、何処から?」
「先の作戦で捉えた森林破壊を指示していた連中の中にトジミン星人が居たのよ」
「ああ、あの作戦か……」
ワナカが記憶に思い出す酷い戦。
森林破壊に住む所を失った陸上の蜘蛛型ハチク星人達が羽虫採集施設に逃げ込んで来た。
たまたま施設の食料品輸送に兵器を混ぜる為に視察していたワナカが、作戦の指揮をとっていた同じタコ型ハチク星人のハナを見付けた折だった。
「おいハナ!」
「ワナカ?」
「相変わらず賑やかだな」
「アンタ程じゃないわよ」
「それにしてもこの難民の数は何事だ?」
「タヌウキ星人よ、奴等Mウル賭場で設けた金で新たな賭場を建設しようと、この星のアルカボンの素材を根こそぎ持ってくつもりよ!」
「そんな事になったらこのハチク星の羽虫も陸も消えちまうぞ!」
「そうよ、だから私達は今から森林破壊の司令塔を襲撃する為に……」
ハナと共に作戦に就いていた蜘蛛型ハチク星人のピートが上部監視で、ハチク星に来ていたのはタヌウキ星人と手を組んだインジン星人だと突き止めていた。
その時の情報に、水上に万棒という微弱電流防壁を建設してタコ型ハチク星人の侵入を拒もうと杭を打ち、陸からも隔離した区画に例のMACベイ戦艦も在った話を思い出したワナカ。
「女郎、それってハナ達の情報か?」
「ええ、残念だけど」
沈む二人の素振りにMJが悟る。
「ハナは駄目だったのか……待て、ならピートも?」
「それが万棒の微弱電流のせいで二人の生存が判らないのよ、とりあえず現地にシオヤを向かわせてるから合流して情報を貰って作戦決行よ」
「了解!」
シオヤは水中からの侵入に絶対の自信があるタコ型ハチク星人の精鋭だ。ワナカと同様にハナの心配から志願したのだろう。
「MJ、あなたにはもう一つやって貰いたい事があるの」
ワナカを先に行かせ立ち止まるMJ、静かに女郎から延ばされた糸での振動通信は二人以外には聞こえない。
「災妻を探れと?」
「それも、頼んだわよ」
MJがホバーボートに乗り込むとワナカから渡される見た事の無い形の銃に顔を向ける。
「アカシ(水中の兵器開発プラント)からの支給品だ! 水中でも使えるレーザー銃だとよ!」
「曲がらないのか?」
「俺に聞くな! ソッチは?」
横に振るMJに、ホバリングを始めながら毎度ながらの無茶な指令にワナカが諦め顔を浮かべる。
二人は六本の足を使う器用な操作方のホバーボートで、万棒のあるカンユウカイへの行きすがら用あって北へ向かっていた。
――SHUFOOOOOHH――
トンボリ道も元々はハチク星の中でも一二を争う活気のあるタコ型にも蜘蛛型にも人気の観光スポットだった。
そこは道楽者で有名な蟹型ハチク星人のタラバを始めとした八天王が仕切る街。
しかし、宇宙船で来て隠れスパイ活動をしていたインジン星人達が横タヌウキ星人の災妻等を連れ立って、唐突にトンボリ道の橋の下から現れて占拠してから街は衰退の一途を辿る事に。
そして、借金・利権・既得権益・下民上民・改革・地方創生……等と聴こえのいい見えない敵を想起させると民衆を煽り悪を別に置き換え、倒す為にと税を吸い上げ湯水の如くに森林破壊に道路を整備していく。
それは、横タヌウキ星の主力製品である移動用の四輪車を売り易くする為だった。
募金で作ったと唱いコロシアムを建てるが、周辺は森林破壊で道路を拡幅。歩きや狭い獣道でも移動出来るホバーボードの通行を抑止していった。
ホバーボードは地球で言う処のママチャリのような存在だった為、四輪車用の道路を拡幅され通れなくなった民衆は、移動の不便に横タヌウキ星の四輪車を買う他に無くなっていく。
しかし、その値段や使う為の更なる税を吸い上げるインジン星人達は、災妻の次なる野望にも乗りほくそ笑みトンキン星団への侵攻の足掛かりにしようと拠点を造る事にした。
勿論またハチク星人を扇動するのに、当時のインジン星人トップだった最初に橋の下から出て来た男は民衆を煽る事にも余念は無く。
スパイに調べに尽くしてハチク星人が心躍るフレーズを見つけていた。
【八策】
八本足故か、八と云う数字に異常な執着心を見せるハチク星人達は、インジン星人達には無自費な八策で無慈悲に身ぐるみを剥がされ追い出されていった……
気付けば災妻はトンキン星団の影の支配者に成りあがっている。
そして、災妻の野望の足掛かりとされ捨て置かれていたハチク星には万棒を築く事に。
使い捨てに残された僅かばかりの森林と資源を護ろうと、トンボリ道ではインジン星人からの奴隷のような扱いに反旗を掲げ抵抗を強めて行った。
その後、デモと小競り合いを制圧射撃で抑え込もうとしたインジン星人の圧政により、ハチク星人は暴徒化しテロが頻発。
それを知った災妻がスペースポリシーを派遣するが、これにより本格的な戦争に突入する。
ハチク星人は横タヌウキ星の四輪車用の道路を破壊し、ホバーボードを進化させる事にホバーバイク更にはホバーボートにと改良を進め、あっという間に横タヌウキ星人を上回る技術を手に入れていたノウミの森。
しかし、それに目を付けた災妻は一旦スペースポリシーを撤退させ、自らの配下である無渇田とスナイパーとしてPAソナの殺戮部隊を向かわせる。
蜘蛛型ハチク星人がノウミの森の中で生産していた兵器開発拠点を、スナイパーとは名ばかりに毒ガスとマシンガンによる大量虐殺で制圧したPAソナが略奪の限りを尽す。
それから暫くの後に横タヌウキ星人の発明としてトンキン星団の彼方此方にホバーバギーが発売されたが、道路を整備させた無駄に気付かれぬよう無理に四輪を保持させた為
浮力が削がれ微妙な走行感の残念遺物となり売れ行きは伸びず、その責任をメカニックに取らせトップの挿げ替えに利権特需の共有を約束にゲコ食星で活躍していたコンを招き置いた。
そのコンとの密約でトジミン星に紛れ込ませていた横タヌウキ星人の故意ミズをトップに担ぎ上げる。
その故意ミズが行うトジミン星の破壊の手助けにと、災妻は無渇田とスナイパーとしてPAソナの殺戮部隊を向かわせた。
スパイ活動で弱点を突き、徐々にトジミン星人の支配地から自由と権利に資産を奪い続けて疲弊させていく。
資源と土地を侵略者に流す実効支配に災妻は、地上げ屋行為に励み暗躍していたハム星人のストカーが率いる部隊も協力していた。
利益の大半を握るトンキン星団の電波で走るスペースボートのスピードレースの賭場衛星の主催者権限を奪う為、遂にPAソナの殺戮部隊が動き出す。
手始めにトジミン星の防御を手薄にする為、MACベイ戦艦をトンキン星団の協力業務としてハム星のストカーと共にここハチク星の護衛任務に派遣させた。
……そして、現在に至る。
「MJ、万棒にPAソナが居ると思うか?」
「判らんが、トジミン星の戦艦がハチク星に在る事自体異常だからな……」
ホバーボートを飛ばして八甲の山間まで来ていたMJとワナカ、休憩に運転を交代し元は街だった戦場の爪痕を横目に作戦の意義を深めていた。
――SHUFOOOOOHH――
気負いになる前にと走り出すMJに話しかけるワナカ。
「俺は思うに、トジミン星の中核は既に横タヌウキ星人が握っているんじゃないかと踏んでる。だから、アッチの噂も本当なんじゃないかと」
「災妻が賭場衛星を強奪するってヤツか?」
「ああ、どうせ女郎から頼まれてんだろ?」
そう言って笑ってみせるワナカがMJの反応と答えに期待している。
操縦に考えが急かされるが、災妻の探りにどの道必要な事で隠す意味は無い。
「なら幹部クラスを生け捕りにする必要があるな」
「だったら……」
晴れた顔を見せたワナカが行き先を変えろと、揺動作戦に蟹型ハチク星人のハナサキとヤシを連れて行くと言い出した。
元々同じ蟹型ハチク星人のアブラとイバラを呼ぶ予定だったが作戦の変更にハナサキとヤシの方が適任だと言う。
アブラ・イバラと合流する予定でアカシ道を北に向かっていたが、八甲山を越えた所で急旋回し進路を東に変え脇の樹林帯へと向ける。
ここから先は万棒の微弱電流の影響で情報は無く、居るかも判らないスペースポリシー等の上空監視の可能性を考慮して森の中を抜ける事にした。
木々を避けるのはMJには馴れたものだが、八甲山の颪に乗りスピードが上がるホバーボートの操縦に難儀する。
「おいおいおいおい、いくら俺が軟体と言っても限度はあるからな!」
「そん時は俺の方がアウトだ! 腹の糸バラ撒く事になるぞ!」
「地獄釣りに垂らす糸が地獄行きか?」
「お前が潰れたら酢漬けにしといてやるよ!」
ワナカがふと目に入った岩に思わず叫ぶ。
「右ぃぃい!」
「視えてるよ!」
ギリギリで交わすMJ、蜘蛛型ハチク星人の目は八つ。
頭の中でどう処理されているのか解らないが、彼等は以前陸に在ったノウミの森の兵器開発セクションで自分達の身体能力向上にと蜘蛛型星人の生体研究をしていた折に
八つの眼が三次元を超える次元を目視していたと解り、新しいワープの概念を見付けていた。
しかし、災妻等の下らない欲に襲撃された折、横タヌウキ星人にこの発明を奪われれば宇宙中がスペースポリシー等により支配され横タヌウキ星人やハム星人等の悪漢に侵略され兼ねないと考え
襲撃の知らせを前にその研究データをノウミの森から移送して、新ワープ航法を実装出来るようにアカシ(水中兵器開発プラント)で研究を進める予定だったが、ソレも危険と感じたハチク星人は……
「ちっ! その次元の眼か、やっぱ判んねえ!」
「その内バレるだろうが、今じゃねえ!」
「あの時ルナGが来てなかったら……」
「ああ、けどあれ以来無渇田が影を潜めてるのが何とも気味が悪ぃ……」
「おぅっ!」
――SHUFOOOOOHH――
唐突に前方を塞ぐ岩に慌てて浮上し交わすMJに、肝を冷やしたワナカが墨を呑み込む。
「おい、ソレ本当に視えてんのか?」
「いや、今のはヤバかった……」
――SHUFOOOOOHH――




