AAA★彼方から永遠の血海
海洋惑星域ジェルドレン歴AD5963年。
シェレンは恋人のマルカレンとのデートに期待と緊張から、前日から何も口に出来ずに腹を鳴らしていた。
――PORUPORUPORUPORU――
「マズいなぁ……何か食わないと」
鳴り止まない腹の虫に辺りを見回すシェレンだが、待ち合わせにしたのは海岸のベンチで周りには何もない。
「ああ、もうこれで良いや」
そう言って口にしたのは波打ち際で群れをなして遊んでいた中の四人家族の子供だった。
「ぐわぁあああっ」
「あなたあああ、くっ!」
子供を見捨てて残る子供を抱え逃げる夫婦や他の家族連れを尻目にボリボリと噛み潰し、滴る体液を舐めずり残る右足を楊枝にして歯に挟まる細かい指の骨を取り除くと右足を擦り潰し飲み込んだ。
――GUWEPPO――
湖面に映る顔を覗き身だしなみを確認すると後ろから大きな足音が聞こえて振り返ると海岸の木々が倒れ、手を振るマルカレンの姿が現れた。
「おおおい!」
「ごめんなさい待った?」
いつもより色が濃いのは自分の為かと心穏やかになれないシェレンが抱きついた。
「もう、折角のお洒落が乱れちゃうじゃない」
「乱れる位が俺には調度良いんだ」
「何よそれ」
「お前が美し過ぎるんだよ」
「馬鹿」
二人の抱擁に波打ち際に、また家族連れが群れをなし集まって来ていた。
「幸せだな、今日はこんなにも雲が広がって」
「本当だわ、潮もこんなに」
空を見上げるマルカレンを見て、今だとばかりにシェレンが背中から何かを広げるとマルカレンは目を見開いて高揚していた。
「シェレン?」
「マルカレン、俺とアノ永久の星に行こう」
そう言って指すのは雲の中に光る数個の星の中でも一際目立つ緑に光る星。
それはジェルドレン星という栄養素の豊富な緑黄色野菜の生い茂る別荘地として有名な星だ。
「私達、絶対幸せになれるわね」
「当たり前だろ海獣シェレン様だぜ」
「私、あなたの背広に永久を誓うわ」
「なら、マルカレンの卵を見せてくれ」
「ええ、勿論よ」
そう言って体を震わすマルカレンとシェレンが抱きついたまま勢いをつけてジャンプすると、雲を突き抜け宇宙に飛び出した。
目の瞬膜を瞑り抱擁したまま二人は我慢強く息を止め体の孔という穴を塞ぎ。
宇宙空間を漂う事数年……
唐突に体の表面に何かが触れる感触に、安堵する二人が体全体が潤うのを確認すると、シェレンが恐る恐る目を少しだけ開くと、眼に潤いを取り戻すように栄養素が目から入って来るのを感じる。
着いたと実感し歓ぶ身体に気を取られていた姿を前に、マルカレンが笑顔で待ち構えていた。
「永久の星ジェルドレンに到着よ」
「おお!」
孔という穴を開き二人の愛を確認する前にシェレンが警戒心からか周囲の安全確認に走り廻る頃、マルカレンがお腹の卵を並べていた。
「マルカレン、イクぜ!」
「来て、シェレン!」
勢い良く近付いたシェレンがマルカレンの並べてた卵に白い何かを撒いた。
――SEIKOUDA――
そして二人は愛を語らい永久に豊富な栄養素を摂り入れる筈だった。
――PIIIGAAAABIBIII――
突然の光が二人を纏い去った。
卵は裂け二人の体は焼け爛れ流れる体液。
豊富な栄養素の水の星は、葉が穴だらけになり、そこは再起不能の電磁波を纏う立ち入り禁止の星となってしまっていた。
その25万光年前……
地球にいた科学者が宇宙に放った電磁波はM13を抜け更に先の宇宙にまで飛び、それが知的生命体を滅ぼす事になるとも知れず……
銅線に通して電気信号に変換すれば幼児の教科書の様な1679個のビットから成る2進数列を二次元で表記したデータによって……
【Arecibo】