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第6話:要塞深部の血脈と、孤高のエンジニア

【前書き】


「アストレア……? それって、私のミドルネームじゃない……!」


要塞最深部から届いた一本の暗号通信。そこに刻まれていたのは、千年前の聖遺物開発者一族を証明する真のキーネーム。

シルヴィア・アストレア・ヴァンガード。

そして、要塞の深部でひとり絶望と戦い続けていた少女、エレナ・アストレア・ヴェスパー。


かつて暗いポッドの中で折れかけていたナナの心に「あきらめないで」と温かい魂のエールを送ったのも、まさに彼女だった。


時空を超えて繋がる一族の絆、そしてナナの救われた記憶。

ついに開かれた秘密のプライベートラインの向こう側で、新たなヒロイン・エレナとの運命の通信が始まる!


第3章第6話、要塞深部との密信シークエンス、行ってみましょう!


ノクターンのメインサロンに、ピンと張りつめた静寂が降臨していた。


アマルテアLevel 2による無制限の補給と絶品料理に腹を満たした直後の和やかさも束の間。


ホログラム画面に映し出された連邦・第4要撃要塞の最深部——高次元炉心ブロックのバイオIDデータを前に、僕たちは息をのんで息を潜めていた。


「ナナ……もう一度言ってみてくれ」


僕が静かに促すと、毛布にくるまったナナが小さな胸をギュッと両手で抱きしめ、潤んだ瞳で頷いた。


「はい……。私がアトランティス社のポッドで、22年間暗闇の中に閉じ込められていたころ……処理数値の濁流の中で心が折れそうになるたび、どこか遠くから『魂の共鳴』をいただいたのです……。『あきらめないで』と……とても温かく、力強い波動でした。……きっと、この要塞の深部にいらっしゃる方が、その方なのです……!」


ナナの言葉に、シルヴィアが息をのんだ。

かつてアトランティスの極秘プラントで同じように強制労働させられていたシルヴィアだからこそ、その「遠くからの声」がいかに救いだったかが痛いほど分かったのだろう。


「ノクターン、通信回線を開けるか?」僕が尋ねる。


『はいぃ〜! プロメテウス・コアの共鳴波をキャリア空間に偽装し、要塞のメインフレームを完全にバイパスいたしました! 彼女が所持するプライベート端末に直接プライベートラインを開きます……接続まで、3、2、1……繋がりましたよぉ〜!』


ノクターンの声とともに、サロンの中央にノイズ混じりのホログラム映像が浮かび上がった。


映し出されたのは、青白い高次元エネルギーの光が激しく明滅する、殺風景で厳重な密閉実験室だった。

無数の太いパイプと計測機器に囲まれたコンソールの前で、ひとりの少女が作業服の袖を捲り上げ、スパナと光ファイバーペンシルを握りしめたまま、信じられないものを見るような目で画面を見つめていた。


つややかな栗色の髪を後ろで雑に束ね、頬に薄っすらと機械油をつけた少女。

その瞳は、連邦の過酷な強制研究に晒されながらも、決して屈することのない野生的な意志の光を宿していた。


「……なになに? 連邦の暗号回線をすり抜けて、私の端末に直接割り込んでくる不躾なハイジャッカーは誰かしら?」


勝ち気で、どこか凛とした少女の声がスピーカーから響く。


「……!?」

その声を聴いた瞬間、シルヴィアの身体がガタッと震えた。


「その声……まさか……」


画面の向こうの少女も、シルヴィアの顔が見えた瞬間に息を詰まらせ、手にしたスパナを床へ落とした。


ガシャンッ……!


「……あなた……その顔……その胸にある紋章……! まさか、ヴァルハラ工廠の……!?」


『ふふん! 驚くのも無理はありませんよぉ〜!』

ノクターンが空中に可憐に躍り出た。


『画面の前の可憐なエンジニア様! 私は古代高次元AGI・ノクターン! そしてこちらは、あなたの血族であり、1000年前の聖遺物開発者一族の生き残り……シルヴィア・アストレア・ヴァンガード様ですぅ〜!』


「シルヴィア……アストレア……!?」


少女がハッと目を見開く。


「……やっぱり……! 『アストレア』のキーネーム……! 千年前に聖遺物を設計した、私たち一族の血を引く者……!」


シルヴィアが一歩踏み出し、画面に両手を押し当てるようにして叫んだ。


「私の名前はシルヴィア! あなたの名前は!? なぜ連邦の要塞深部にいるの!?」


少女はくちびるを強く噛み締め、胸元から出していた古びたIDペンダントをぎゅっと握りしめた。


「……私の名前は……エレナ。エレナ・アストレア・ヴェスパー。連邦の第4要撃要塞・高次元炉心ブロックで、プロメテウス・コアの強制維持演算をさせられている……エンジニアよ」


**【エレナ・アストレア・ヴェスパー】**


シルヴィアと同じミドルネーム『アストレア』。

千年前、古代高次元文明において10大聖遺物を生み出し、連邦の兵器化を防ぐために散り散りとなった伝説の開発者一族の真のキーネームだった。


「エレナさん……っ!」


それまで黙っていたナナが、毛布を押し払って画面の前へと駆け寄った。


「私です……! AX-07……アトランティス社のポッドの中にいた生体デバイスです! かつて……あなたが『あきらめないで』と波動を送ってくださったのですね……!?」


エレナの表情が、一瞬で柔らかい驚きと感極まった色に染まった。


「あ……あの時の……小さな波動……! あなた、助かったのね……!? アトランティスから……連れ出してもらえたのね……!?」


「はい……! リョウ様と、マルコ様と、シルヴィアさんと、ノクターン様が……私をポッドから救い出してくださいました! 私は今、『ナナ』という名前をいただき、温かいご飯を食べて、自由な銀河を旅しています……!」


涙ぐみながら語るナナの姿に、エレナの目からもポロポロと涙がこぼれ落ちた。


「よかった……っ! 私の送った共鳴が……無駄じゃなかったなんて……っ!」


エレナは服の袖で乱暴に目元を拭うと、再び凛とした強い瞳で僕たちを、そして何よりリョウをまっすぐに見つめ返した。


「……あなたが、この船のマスターね? サルベージ屋の『リョウ』……で合ってるかしら?」


「ああ、リョウだ」

僕が一歩前に出ると、エレナは不敵に、そしてどこかハングリーな笑みを浮かべた。


「いい度胸ね。アカシック・レベル2を強奪し、アトランティスからアマルテア・プラントとナナちゃんを丸ごと掠め取った破天荒なクーリエがいるって噂は、この要塞の深部まで届いていたわ。……で? 今度は連邦の『プロメテウス・コア Level 2』を横取りしに来たってわけ?」


「話が早くて助かるよ」

僕は口元をニヤリと歪めた。


「連邦の追撃網はスズメバチの巣を叩き落したみたいに狂暴だ。正面突破じゃ骨が折れる。……エレナ、僕たちに協力してくれないか? プロメテウスを奪い、お前もその地獄の要塞から連れ出してやる!」


僕の言葉に、エレナは一瞬呆けたような顔をし、それからハハッ! と声を上げて笑った。


「最高ね! 自分の身の安全と引き換えに、連邦の喉元にある聖遺物を強奪しろだなんて! ……でもね、断る理由がどこにもないわ!」


エレナは画面をタップし、要塞の最深部構造データをこちらへ転送し始めた。


「私はこの地獄で、連邦の奴らにプロメテウスの無限エネルギーを兵器転用されるのを、必死で内部から遅延させていたの。でももう限界だった……。交代の生体パーツが来たら、私も処分される手はずになっていたのよ」


エレナの言葉に、マルコが激怒して拳を壁に叩きつけた。


「クソッ……! アトランティスも連邦も、やってることは全く同じじゃねえか! 生体デバイスだの末裔だの言って、人間を道具みたいに使い潰しやがって……!!」


「だからこそ、私からプレゼントよ!」

エレナは画面上で要塞の立体マップを拡大してみせた。


「第4要撃要塞の第一〜第三防衛線は、プロメテウスの出力を使った『絶対不可侵シールド』で覆われているわ。正面から突っ込んだら、ノクターンでも灰になる。でもね……高次元炉心の冷却バラスト排出口——水深ならぬ“高次元密度の歪み”の隙間に、私が極秘で作ったメンテ用ダクトがあるの!」


「裏口ってわけだな!」とマルコが身を乗り出す。


「そうよ! そこから侵入してくれれば、私が内側からプロメテウス・コアのセキュリティロックを解除し、要塞全体のシールドを15秒間だけダウンさせてあげる! その隙にコアを強奪して、私を回収しなさい!」


「15秒か……上等だ!」僕が力強く答える。


シルヴィアが涙を拭い、画面のエレナに向かって強く頷いた。


「エレナ……待っていて! 私たち一族の血を……アストレアの名を、あんな冷酷な連邦の奴らに踏みにじらせはしないわ! 絶対にあなたを助け出すから!」


「ええ、待ってるわよ、シルヴィア! それと……ナナちゃん!」


エレナが画面越しにナナへ向かって優しく微笑んだ。


「本物の『ご飯』って……どんな味がするのか、私にも教えてね!」


「はいっ……! マルコ様の作ってくださるご飯は、世界で一番美味しいです……! 絶対に、絶対に助けに行きます……!」


通信が途切れ、メインサロンに力強い決意の熱気が満ち溢れた。


「決まりだな」

僕は操舵桿を握り締め、スロットルレバーを最高出力へと叩き込んだ!


「目指すは連邦・第4要撃要塞の最深部! プロメテウス・コアの強奪と、エレナの救出だ! 全員、配置につけーーっ!!」


『アイアイサー、マスターっ!!』

ノクターンの叫びとともに、黒き古代艦は高次元の歪みを切り裂き、要塞の裏口へと向かって全速力で跳躍した——!



【後書き】


いつも最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ついに開かれた秘密の通信回線!

シルヴィアと共通のミドルネーム『アストレア』を持つ、1000年前の聖遺物開発者一族の生き残り——**エレナ・アストレア・ヴェスパー**との運命の出会いが描かれました!


ポッドの中のナナに「あきらめないで」と魂のエールを送っていたのがエレナだったという感動の伏線回収!

そして、要塞最深部の裏口ダクトと「15秒間のシールドダウン」という、最高の強奪作戦の鍵が手に入りました!


次回、第3章第7話(通算第25話)


**『メンテ用ダクト突破! 15秒の電撃強奪作戦』**


連邦の鉄壁の要塞へ、裏口ダクトから決死の潜入!

エレナが命がけで作る「15秒のシールドダウン」の隙に、プロメテウス・コアLevel 2の奪取とエレナの救出は成功するのか!?


「シルヴィアとエレナの血族の絆にシビれた!」「ナナとエレナの魂のエールの回収が神がかってる!」「15秒の制限時間作戦でワクワクが止まらない!」と思ってくださった方は、ぜひブックマーク登録や評価(ハイヴ)をいただけますと大変励みになります!

また、ご批判ご意見もどしどし言いつけて頂けますと更にM気質な私には励みになります。


次回更新もどうぞ期待してお待ちください!

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