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第6話:美女の微笑みと、三百万クレジットの代償

「……あら。噂の『凄腕の運び屋』さんたちは、思ったよりも若くてハンサムなのね?」


紫煙の向こう側で、漆黒のドレスを纏った美女——ドン・カルロの筆頭側近である『カミラ』が、蠱惑的な笑みを深めた。


通信機越しに『主砲、微粒子砲の照準ロック完了です!』と鼻息を荒くするノクターンの音声を無視しながら、リョウは不敵な笑みを崩さずに一歩前へ踏み出した。


「挨拶は抜きにしよう。ドン・カルロの依頼品を持ってきた。……約束の三百万クレジットと、美味いメシの情報を用意してもらおうか」


「ふふ、せっかちな男は嫌いじゃないわ」


カミラは細い煙草を灰皿に押し付けると、優雅に指を鳴らした。

応接室の奥の壁が静かにスライドし、重厚な耐熱金属ケースがせり上がってくる。蓋が開くと、そこには眩い青白い光を放つ無数の【連邦標準クレジット・チップ】がぎっしりと敷き詰められていた。


「約束通り、現金で三百万クレジット。連邦の金融監査にも絶対に引っかからない、完璧に『洗われた』口座チップよ」


マルコがゴクリと喉を鳴らし、チップの束を視線で舐めるように見つめる。


だが、リョウは焦りを見せることなく、胸ポケットから超小型の「暗号化記憶ストレージ」を取り出し、テーブルの上に軽く置いた。


「アトランティス社が隠蔽していた、環境破壊型・テラフォーミング兵器の初期実験データだ。追撃隊の巡洋艦を一隻沈めてまで届けてやったんだ、おまけのボーナスがついたって罰は当たらないだろ?」


「あら、強気ね」

カミラは目を細め、リョウの胸元にそっと細い指先を滑らせてきた。


「ねえ、リョウ……あなたたち、このデータの中に何が入っているか、本当の価値を知っているの?」


耳元で囁かれる甘い声。

(……きたな、ハニトラ!)とマルコが身構える。


通信機からは『リョウ! 騙されちゃダメよ!』というシルヴィアの叫びと、『マスター! 物理的威嚇としてドックの照明をハッキングして消灯させますかぁ!?』というノクターンの物騒な提案が飛んでくる。


しかし、リョウは動じない。カミラの濡れたような瞳を真っ向から見つめ返した。


「興味がないね。僕たちは『クーリエ(運び屋)』だ。荷物の中身に深入りしないのが長生きのコツなんでね」


「……ふふ、優秀な運び屋様ね。でもね……」


カミラの表情からふっと妖艶さが消え、裏社会を生き抜いてきた冷徹な刃のような光が宿った。


「ドン・カルロ様からの『本当の依頼』は、ここからなの」


「なに……?」


カミラはホログラム端末を操作し、ルビコン星系のさらに奥深くに位置する『死宙域・セクター09』の立体マップを展開した。


「このデータをオークションに出品する前に……アトランティス社と連邦暗部(特務八局)が合同で進めている【最終実験施設】を叩き潰したいのよ。彼らはこのルビコン星系全体を、実験の『餌』にしようとしているわ」


「連邦の暗部とアトランティスが……マジで繋がってやがったか!」

マルコが不快そうに顔を歪める。


「彼らが実験を強行すれば、この星系に流入する本物の野菜や肉、水資源はすべて汚染され、闇市場の美食も全滅ね」


「……美味いものが食えなくなるのは、見過ごせないな」

リョウはニヤリと笑い、テーブルの上の三百万クレジット・チップをガシッと掴み取った。


「いいだろう。その追加の仕事、受けてやる。ただし——」


リョウはカミラに向かって人差し指を立てた。


「報酬は倍。それから、ルビコン・ゲートで手に入る最高の『生鮮食品の優先調達権』と、ノクターンの補給用エネルギーパックを最高等級で用意してもらう」


カミラは一瞬呆気にとられたように目を見張り、やがて腹を抱えて可憐に笑い転げた。


「あはははっ! 銀河の支配構造を相手に回す大仕事の要求が『お肉とエネルギー』なんて! 本当に最高にバカで、魅力的な男たちね!」


カミラはスッと手を差し出した。


「交渉成立よ、凄腕のクーリエさん。……ごちそうと生き残りを賭けた、本当の宴を始めましょうか?」


三百万クレジットを手にし、巨大な陰謀の渦中へと自ら飛び込むリョウとマルコ。

ルビコン・ゲートの闇の奥で、チーム・ノクターンの反撃の狼煙が上がろうとしていた——!

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