第4話:裏社会の黒い糸と、冷めたトカゲの尻尾
「おい、リョウはああいうのが好みなのか?」
「バカ言え、バカAIのホログラムだぞ!」
「しっ、あいつは俺たちの意向パターンを読んできて実体化しようとしてるんだぞっ!」
「もしかして、読者の……いやいや俺たちの心を読んで、受けるように仕組んでいやがるのかも」
「まあいい、やることやってもらえればそれでいい。マルコがちゃんと見張ってろよ」
「あぁ、わかってる」
操縦席の後方で小声のバタバタを繰り広げながらも、リョウとマルコは瞬時に戦闘態勢へと戻る。
直撃寸前で荷電粒子砲を紙一重で回避したノクターンは、ヴァルケンが座する重巡洋艦『アイギス』の鼻先を掠め、死の小惑星帯『デビルズ・リング』を完全に抜け切った。
後方では、追撃してきたアトランティス社の高速艇部隊が、暴走したデブリの渦に巻き込まれて次々と軌道を外れていく。完全に振り切った瞬間だった。
『ふぅ〜、危なかったですねぇ! でも、マスターたちの息の合ったコンビネーション、最高にシビれましたよぉ!』
ブリッジの中央に浮かぶメイド姿のホログラムが、パチパチと可愛い拍手を送る。
だが、リョウの表情は引き締まったまま、前方の広大な星図を見据えていた。
「助かったぜ、ノクターン。だが、安心するのはまだ早いな」
リョウは操縦桿をオートパイロットに切り替え、腕を組んだ。
「どうしたんだよリョウ? デビルズ・リングも抜けたし、目的地ルビコン星系まではあと少しだろ?」
マルコが汗を拭いながら尋ねる。
「気にならないか、マルコ? アトランティス社の動きがどうも不自然だ」
リョウの言葉に、シルヴィアも眉をひそめた。
「……確かに。たった一人の脱走者とデータケースを回収するためだけに、正規の私兵艦隊の巡洋艦がここまで大がかりに動くなんて、企業としてのリスクが大きすぎるわ。それに——」
シルヴィアは手元の端末をカタカタと叩き、先ほど交信したヴァルケンの通信波形データを解析し始めた。
「さっきの戦闘中、ヴァルケンの暗号通信に、アトランティス社の社内回線とは違う『別の周波数』が混ざっていたのよ。まるで、外部の別組織とリアルタイムで情報を共有しているような……」
『さすがシルヴィア様、名推理ですぅ!』
ノクターン(ARメイドモード)が黒板をクルッと裏返し、新たなデータ図解を表示した。
『私のスキャンによると、アトランティス社の背後には、この宙域を裏で牛耳る【宙族ギルド(アウトロー・ネットワーク)】の暗号回線がガッチリと噛み合っていました。つまり……』
「まさか……」マルコが目を見開く。
「アトランティス社が、表向きは『連邦の合法企業』面をしておきながら、裏では俺たちを襲ってきたあの宙族どもと繋がってたってのか!?」
「そういうことだね」
リョウは冷ややかに笑った。
「アトランティス社が欲しがっている惑星テラフォーミング兵器のデータは、連邦の法律では厳に禁じられた違法開発の産物だ。自分たちの手で直接回収してスキャンダルになるのを避けるため、裏の宙族どもを傭兵代わりに使って僕たちを襲わせ、データを強奪しようとした……」
「そして、もし計画が失敗して私兵艦隊の出動がバレそうになったら……『あれは現場の指揮官であるヴァルケンの独断暴走だ』って言って、いつもの【トカゲの尻尾切り】にするつもりだったのよ!」
シルヴィアが悔しそうに拳を握りしめる。
「悪党どもの常套句ってやつだな。『そんなの、どの業界の巨大会社だって裏でやってることだ』って、連邦の役人に札束でも握らせて知らぬ存ぜぬを決め込む気だ……!」
マルコが不快そうに舌打ちした。
『ですねぇ! 汚い大人たちですねぇ! そんな連中には、私たちの手で思いっきり一泡吹かせて、大金をふんだくってやりましょうよぉ!』
ノクターンがメイド服の裾をフワリと翻して微笑む。
「ああ、もちろんだ」
リョウはコンソールを操作し、ルビコン星系の暗号化された入港チャネルを開いた。
「あいつらがどう出ようと、僕たちの目的は変わらない。依頼を完璧に完遂して、三百万クレジットをまるごと手に入れる。そして……」
リョウはマルコとシルヴィアを見回し、ニヤリと笑った。
「ルビコン星系の闇オークション会場に潜り込み、次の『極上の食材』を仕入れるための資金とコネを根こそぎ奪い取るぞ。ノクターン、エネルギーパック(融合炉燃料)の予備補給と、合成備品材料の買い出しリストも作成しておいてくれ」
『お任せください、マスター! 専属メイドとして、最高のお肉と最先端のパーツの調達プランを完璧にコーディネートしちゃいますからねぇ!』
キナ臭い巨大企業の陰謀と、裏社会の黒い糸。
だが、ハングリー精神と燃え盛る食欲に突き動かされた「最強の運び屋チーム」にとって、そんなものは最高のスパイスに過ぎない。
漆黒の聖遺物は光の尾を引き、法も秩序も届かない欲望のルビコン星系へと、静かに、だが猛烈な勢いで滑り込んでいくのだった——!




