第8話 世界の異物
森を抜けたあたりで、空の色がゆっくり変わっていくのが分かる。
青が引いて、代わりに橙が広がる。
伸びた光が地面を舐めるみたいに走って、通り過ぎる人の影を細長く歪ませている。
町へ近づくほど、視線が増えていく。
見慣れない顔を気にする。そんな生ぬるいものじゃない。
俺を見た瞬間に足が止まり、目が開き、それからじわっと距離を取る。反応が揃いすぎていて、逆に笑えるくらいだ。
原因は分かりきっている。
浮かんだベッドに乗って移動する男。どう見ても異物だ。
「ひそひそ話が耳に痛いな……」
内容は分からないが、方向だけははっきりしている。
警戒と困惑、それに少しの恐怖。
サンクチュアリの縁に手を置く。いつもの感触なのに、妙に自分だけが現実から浮いている気がする。
「マスター、ハゲてるの指さして笑われてるっぽくない?」
「誰が禿げだ、フサフサだわ。そうじゃなくて、ベッドに乗って移動しているのが異質なんだよ」
「なるほどね~。じゃあテッパンのアピ考えよ~。例えば『遠い東の国から来ました。その地ではベッドに乗って移動するのが普通です』ってどお?」
「そんな嘘、通用しないだろう、却下だ」
「じゃあ『記憶喪失でどこから来たのかわかりません。なんでベッドに乗っているんでしょう』これは?」
「そんな都合のいい記憶喪失なんて、あってたまるか」
「も~、ワガママだなマスターは」
どんな肩書きを乗せても、サンクチュアリがあるかぎり全部崩れる。
「確かに、隠そうとするほうが不自然になるな……」
「じゃあどうするの、マスター」
「どうするも何も、言い訳はせずに堂々とする」
「ほうほう?」
「そうだな……例えば見せ方を選ぶ」
「つまりブランディングってやつ?」
「雑に言えばな」
苦笑が漏れる。だが、方向性は悪くない。
もう一度、周囲を見る。
人の目。距離。ささやき。全部そのまま、材料になる。
観察されるなら、観察し返す。
「異世界人であることも、サンクチュアリも、全部込みで見せる。その上で、相手にどう扱わせるかを決める」
「強気ぃ~。嫌いじゃないよ」
「他に手がないだけだ。後手に回るのは諦めるしかない。それでも飛び方くらいは自分で決める」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
続きが気になると思っていただけたら、ブクマしていただけると励みになります。
全112話 毎日投稿します。
最後まで楽しんでいただけたら幸いです。




