第58話 揺れる専属メイド
ケイシーが俺を笑わせようとパントマイムをしている。そんな疑惑が浮上する。
木剣の柄を握り、顔を赤らめながら腰を回す。
名演技だ。
……可能性としては低い。だがゼロじゃない。
なら、演技では成立しない条件を用意すればいい。
「ケイシー、いったん手を放して」
「はい」
俺は立ち上がり、腕を上に伸ばしきって、木剣を支える。
すると肩がじんわり張ってくる。
そのまま柄だけを結界の外に出す。ケイシーが腕を伸ばしても届かない高さだ。
「今度はぶら下がってみて」
「失礼します」
ケイシーが軽く膝を曲げ、小さく跳ねるように踏み切る。
両手で柄を掴む。
その瞬間、距離が一気に消える。
顔が、目の前にある。
逃げ場のない距離で見えた瞳が、どこか猫みたいに細く揺れる。
――近い。いや、近すぎる。
呼吸が一拍止まる。
頬のあたりがじわっと熱を持つのがわかる。
視線の置き場に困るくせに、外せない。
細かい表情まで全部見える。
瞬きの速さとか、口元のわずかな動きとか、普段なら拾わない情報が勝手に入ってくる。
「ユウナギさん、力持ちだったんですね」
その声が現実に引き戻す。
それなのに、腕にかかる負荷は木剣の重さだけで、非現実的だ。
確かめるように木剣をわずかに揺らす。
すると、彼女の身体が小さく左右に振れる。
スカートの裾がふわりと広がり、髪が遅れてついてくる。
「わっ……!」
短い声。足先が宙で揺れる。視線がこちらを見上げる形に動いて、眉が少し寄る。
怒っているわけじゃない。困っているのと、少し笑いそうなのが混ざった表情だ。
悪戯心が顔を出す。
もう一度、今度は少しだけ大きく揺らす。
「あわわわわわ! 揺らさないで! 揺らさないでぇ~!」
声が崩れる。足がばたばたと宙を蹴る。完全にコントだ。
――これはちょっと楽しい。
視覚と感覚のズレも含めて、妙な中毒性がある。
木剣をゆっくり振ると、彼女の身体がふわり、ふわりと揺れる。そのたびに距離が微妙に変わって、視線が合ったり外れたりする。
「ユウナギ殿。……何やら楽しそうだな、私も混ぜて欲しい」
声が割り込む。
視線を向けると、ジェイミーたちが紙の束を抱えて立っている。いつの間にか戻ってきていたらしい。
タイミングが悪すぎる。
さあ遊びの時間は終わりだ。分析に取り掛かろう――
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