表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
51/109

第51話 調査隊、集結

 朝。まだ空気が少し硬い時間だ。

 庭園の花に視線を落としながらぼんやりしていると、規則正しい足音が近づいてくる。

 視線を流すと、ダニエルとジェイミーが並んで進んでいる。

 どちらも鎧ではなく、王国騎士の制服姿なのが新鮮に見える。肩の力の入り方が違うせいか、別人みたいだ。

 あえて、正直に言えば、似合っていない。まあ、見慣れないだけかもしれないが。


 俺の前で二人が止まる。


「ユウナギ殿のやることを手伝えと、えらく曖昧な命令を受けて参上したぞ」


 ダニエルは腕を組み、眉間にしわを寄せる。視線もわずかに逸れていて、納得していないのが丸わかりだ。


「お手伝いできて光栄です」


 その隣でジェイミーが拳を胸に当てて敬礼する。動作はきっちりしているのに、なぜか口元は緩んでいる。

 並べて見るとひどい対比だ。片や渋面、片や楽しそう。姿勢も表情も、ここまで揃わないのは見ていて面白い。


「不機嫌そうだけど、どうかした?」

「ユウナギ殿が俺たちの上官になった。そういうことだ」

「手伝いに来ただけだよね」

「同じことだ」

「それは、その……。なんかゴメン」


 ダニエルは、ただ小さく鼻を鳴らす。許したのか、諦めたのか、判断に困る反応だ。

 ジェイミーは横でくすっと笑う。完全に面白がってるな、これ。

 上官、か……。言葉だけが少し浮いて、胸の奥に引っかかる。実感はない。でも立場だけは変わっているらしい。


「無理に堅くならなくていいよ。こっちもそのほうがやりやすいし」


 口調を崩す。これから一緒に仕事するなら、堅苦しくないほうがいい。まずは、フレンドリーに接する一歩だ。




 ふと、遠くの足音に気づく。一定で、迷いがなく、まっすぐこちらへ向かってくる音だ。反射的に視線を向ける。

 紫を基調とした衣服の男が、一直線に歩いてくる。細身だが、芯が通っている。無駄な揺れがないというか、体の中心がぶれないまま前に進んでくる感じだ。

 視線が合う直前、銀縁の眼鏡が光を拾って、顔の一部が一瞬だけ隠れる。


「ユウナギ殿でお間違いございませんね」


 抑揚の削れた声。丁寧なのに、温度が低い。


「そうだけど、あなたは?」


 男は胸に手を当て、正確すぎる角度で一礼する。儀礼用の動作をそのまま切り取ってきたみたいだ。


「わたくし、宰相府書記官を務めております。アラン・シーグローブと申します。本日より、ユウナギ殿のご活動について、諸手続きの補佐を命じられております。以後、お見知りおきを」


 宰相府、つまり、オーウェン宰相の直轄。

 これで、宰相と騎士団総長の犬が揃ったわけか。

 考えたまま黙っていると、アランは指先で眼鏡の位置をわずかに直す。ほんの数ミリの調整なのに、やけに目につく。


「ご懸念はもっともかと存じます。ですが、わたくしの役目は、あくまで記録と調整にございます。ユウナギ殿のご判断を妨げる意図は、一切ございません」


 俺が警戒していると悟り、先回りして弁解してきた。

 観察力が高く、礼儀もわきまえている。さすがは宰相が回してきた人材だ。


「ずいぶん優秀そうだな」

「職務に忠実であることを心掛けております」

「心強いよ」


 そう返しつつ、横に視線を流す。

 ダニエルとジェイミーの背筋が、揃って伸びている。さっきまでの温度差が嘘みたいに消えて、二人とも完全に“軍の顔”になっている。

 どうやら書記官って肩書き、思ってたより上らしい。ただ、こうも固まられると、こっちがやりづらいんだよな。


「それではユウナギ殿。今後の予定を伺ってもよろしいでしょうか」


 昨日のやり取りを順に思い出し、要点だけを並べて説明する。




「宰相と騎士団総長が昼食に来ただとっ!」


 ダニエルの声が一段上がる。さっきまでの不機嫌とは質が違う。顔色がすっと落ちて、そのまま腹を押さえる。


「調査ねえ……。ユウナギ殿にあてはあるの?」と、ジェイミーが軽く首を傾げる。

「まったくない」

「宰相相手に安請け合いするなんて大物だわ」と言いながら両手を広げて、やれやれと肩をすくめる。


「俺が返事をする前にロックウッド総長は帰ったんだよ」

「……あの方なら、そうね」


 どうやら総長の行動パターンは、この国では共通知識らしい。理解が早いのは助かるが、評価としてはどうなんだ、それ。


「魔法はリンダのを見ているが、まだ魔術を見たことがない。

 なあ、魔術を扱える人は、近くにいないのか?」

「第一軍の訓練場なら近いわよ」

「いいね。では、そこへ行くついでに、王城の中を案内してもらおうかな。本物の城なんて見たことないし」

「残念だけど、城内は許可がないと入れないの」

「そうなの?」

「騎士であるあたしたちでも無理なの。だから案内できるのは屋外だけになるわ」


 そのとき、横から静かな声が差し込む。アランだ。


「後日でよろしければ、わたくしから宰相閣下にお話を通しておきますが。いかがなさいますか?」

「そうだね。調査とは関係ないけど、見学をお願いしてみるのもアリかな」

「了解致しました」


 腹を押さえていたダニエルが顔を上げた。


「異世界人は恐れ知らずだな、城内は重鎮の巣窟だぞ」

「王様より怖い人はいないんだろ?」


 何気なく返すが、ダニエルの顔色が、さらに悪くなる。


 ――なぜ?


ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になると思っていただけたら、ブクマしていただけると励みになります。

全112話 毎日投稿します。

最後まで楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ