第46話 反省会
王は満足そうな笑みを浮かべたまま、台座を降りる。
合わせて護衛が動き、距離を保ったまま後に続く。
王の背が建物の影に溶ける。
最後まで振り返らないまま、その気配だけがすっと遠ざかっていく。
止めていた息が、一気に抜ける。胸が上下し、遅れて肩が落ちる。
――乗り切った。
その一言に尽きる。内容の良し悪しなんて、今はどうでもいい。
横で、ダニエルが大きく息を吐く。額の汗を手の甲でぬぐいながら、顔をしかめる。
「おいおい勘弁してくれ、いつ首を撥ねられるかヒヤヒヤしたぞ」
苦笑とも愚痴ともつかない声だが、わりと本音だろう。さっきまでの張り詰め方を思い出せば、無理もない。
「ホントよ、陛下に向かって“不要”なんて。バカじゃないの?」
ジェイミーが言いながら、サンクチュアリの結界を拳で叩く。鈍い音が一度だけ返って、それ以上は何も起きない。八つ当たりにしては、だいぶ遠慮がない。
「ユウナギさん、王様にも怯まずお話しなさって、とてもご立派でした!」
ケイシーの声は素直だ。視線を向けると、瞳がきらきらしている。評価が高すぎて、ちょっと居心地が悪い。
「いや、そんな大したことじゃないよ」
「異世界人ってのは、恐怖を感じない生き物なのか?」と、ダニエルが言う。
「感じますよ。ただ、あの場はそういう話じゃなかっただけです」
「……どういう意味だ」
「王は、こちらの風習に合わせてましたよね。あの台座も、座り方も」
「ああ」
「対等に話すつもりだったんだと思います。王としてではなく、一人の人間として。だから俺も、そうしただけです」
「そんなもんか?」
「器は大きいと思いますよ。少なくとも、話が通じる相手です」
「……まあ、否定はしないがな。実際、ああいう方だし。
だがな、それとこれとは別だ。おまえ、距離感がおかしいんだよ」
「いいんじゃない?」と、ジェイミーが軽く笑いながら、
「相手を見てやってるってことでしょ、それ。誰にでもあの調子なら問題だけどさ、ちゃんと線は引いてるし、問題ないわ」
「はぁ……。どうなっても知らんぞ」
ダニエルが肩をすくめる。呆れ半分、諦め半分といった顔だ。
「そう言えば、食客として歓迎って、どういうこと?」と、気になる点を聞いてみる。
「とりあえず、不敬罪で処刑にする気はないってことだ」
「え……」
背中がひやりとする。今さらかよ、と思わなくもないが、遅れて実感が来るタイプのやつだ。
「詳しいことは、いずれ下知があるはずだ」と、ダニエルは肩を回しながら、
「ユウナギ殿は町にいても奇異な目で見られるだろう。だが、そのベッドは雨風を凌げる。だからここにいてもいいってことだ」
「庭園のど真ん中が寝床ね、素敵じゃない」
ジェイミーが口元を歪める。褒めてはいない。むしろ逆だ、楽しんでいる。
「じゃあ、俺たちは騎士団に任務達成の報告をしてくる」
ダニエルが手を軽く振る。その仕草も、もういつもの調子に戻っている。
「また後でね」と、ジェイミーが続く。
「いってらっしゃいませ」
ケイシーが軽く頭を下げる。
――やれやれ、食客という名の飼い殺し、か……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
続きが気になると思っていただけたら、ブクマしていただけると励みになります。
全112話 毎日投稿します。
最後まで楽しんでいただけたら幸いです。




