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第43話 城下のヒエラルキー

 サンクチュアリを滑らせていると、道の両脇に粗い木組みの家が続く。

 傾いた壁や抜けた屋根から差し込む光が、そのまま暮らしの余裕のなさを透かして見せてくる。


「マスター、テンション低め、どしたん?」

「勝手なイメージだけど、王都って、もっとこう、華やかだと思っていた」

「入口だからっしょ」


 視線を上げると、遠くに壁が立っている。まっすぐで、重くて、周囲の家と明らかに質が違う。




 しばらくして門に到着。ダニエルが手続きを済ませると、ふたたび馬車が走り出す。

 俺はその後をついて行く。

 門をくぐると、影が一瞬だけ視界を覆って、その先で景色が切り替わる。

 木の家は消え、石造りが並ぶ。

 通りからは金属を打つ音や、値を探る声が混じってくる。


「さっきのは貧民街か」

「外に近いほど安い、とかありそうじゃん」

「地価でフィルタかかってる感じだな」


 その先に、また壁が見える。区切るためというより、自然に積み上がった境目みたいに立っている。


「……まだあるのか」

「だんだん静かになってない?」


 二つ目の門を抜けると、人の歩調が揃い、声も自然と落ちる。服は地味だが質が良く、無理に飾っていない分だけ整って見える。


 三つ目の門をくぐると、今度は視線が合わなくなる。建物は高く、塀が連なり、内側を見せない作りが続く。


「邸宅か……」

「秘密主義ってヤナ感じ~」


 四つ目の門が見える。他よりも厚く高い。


「ここまで来ると、意図して分けてるようにも見えるな」

「でもさ、それやるメリットある? 管理コスト高そうじゃん」

「……確かに。誰かが都市計画をした結果じゃないな。金と仕事と安全性、その辺で選別されて、気づいたらこうなっていた。そんなところか」

「自然発生ヒエラルキーってやつだね」

「だけど、もし意図的に、階級制度を強いて差別するような国なら、とっとと別の国へ行くぞ」

「逃げられるとイイネ、マスター」

「怖いこと言うな……」




 重厚な鉄扉。壁面に刻まれた紋章。規則正しく立つ衛兵たち。

 警備のレベルがワンランク上がる。

 馬車が止まると同時に、ダニエルが地面へ降りる。


「ここから先は中央区だ。この国の行政の中心地。歩いて行くぞ」


 ダニエルは門の脇に立つ兵へ歩み寄り、短く何かを告げる。

 兵は一瞬だけこちらに視線を寄こし、それから機械みたいにうなずくと、城の方へ駆けていく。


「俺たちの到着を知らせたんだ」

「誰に?」

「俺の上官だ」


 そこで、ニタリと笑う。

 企みを隠す気がないのか、それとも隠せていないのか、判断に困る顔だ。

 ジェイミーがちらっとダニエルを見る。何も言わないが、理解はしていそうだ。

 ケイシーがサンクチュアリの二階から静かに降りてくると、きょろりと周囲を見ている。

 使わない二階と天蓋は消しておく。あれはひときわ人目を引きやすい。




 ダニエルとジェイミーが並んで前を行く。

 俺の隣では、ケイシーが目線をせわしなく泳がせている。


「珍しい物でもあるの?」

「いいえ、王都に来たのは初めてですから、その……ちょっぴり上がっていて」


 恥ずかしそうに視線を地面に落とす。


 ――はい、カワイイ!


 のんびりと進みながら門を抜ける。

 すると、空気が変わる。いや、空気そのものじゃない。景色の密度だ。

 道幅が一気に広がる。石畳はやけに整っていて、ひび一つ見当たらない。

 建物も変わる。二階建てが標準だった外周と違って、ここは三階、四階が当たり前だ。白い壁に、やたらと手の込んだ窓枠。飾るための余裕がある、ってやつだ。

 通りを歩く人間も別物に見える。

 布は厚く、重そうで、その分だけ質がいいのが素人目にもわかる。刺繍や装飾がやけに多いのは、実用性より見栄を優先している証拠だ。


 通航人の視線が集まる。

 またか……。

 気分を落とさないよう、ケイシーの横顔を見て心を癒す。




 さらに進むと、視界の先に門が立ち上がる。

 これまでのものとは明らかに違う。高さも幅も桁が一つ上で、その向こうに、灰色の塊みたいな城がどっしりと構えている。


「すごいだろ。ああ見えてな、ただデカいだけじゃないんだ。守りも考えられてる。俺も最初見たときは、ちょっとだけ感心した。ま、毎日見てりゃ慣れるがな。でも他じゃ見られねえぞ、こんなのは」

「いやいや。“ちょっとだけ”は嘘でしょ。初見で口開けて立ち尽くしてたの誰よ」と、ジェイミーがすぐに被せる。

「うるせえな」


 石は灰色。余計な装飾は削ぎ落とされていて、壁の継ぎ目すら計算されているように見える。確かに“城”としての完成度は高いのだろう。

 ただ、頭の隅に浮かぶ比較対象は、ネズミーランドの白亜の城。

 正直、目の前の城に、そこまでの衝撃はない。


 横目で二人を見る。ダニエルのドヤ顔がうるさい。

 この空気に、水を差す理由はない。


「なるほど。確かに、しっかりした造りですね。無駄が少ないというか。実用と見栄え、両方ちゃんと成立してるのはすごいと思います」


 当たり障りはない。けど、嘘も言ってない。こういうのはバランスだ。


「そうだろう」と、ダニエルが満足げに鼻を鳴らす。


 ――はい円満解決。社会人スキル発動だ。


 ジェイミーが、ジトッとした目で俺を見る。

 こっちにはバレているな……。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になると思っていただけたら、ブクマしていただけると励みになります。

全112話 毎日投稿します。

最後まで楽しんでいただけたら幸いです。

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