第42話 ドライブトーク
街道が、絶え間なく後ろへ滑っていく。
左右の草原は、緑の帯となって横へ流れ続ける。一本一本の草の穂が形を保つ間もなく、視界の端へ吸い込まれていく。
空は薄い青で、ところどころに白い雲が散っている。
雲の影が地面をゆっくり横切っていく。
流れる風を肌で感じたい。そう思うけれど、結界がその願いを遮断する。
「ねぇマスター、なんで騎士の命令、あっさり聞き入れたん? 普通なら、もっとゴネるっしょ? “俺は自由に生きる”とか言いそうなのにさぁ」
「断ったら、あいつら罰を受けるらしいから、仕方ないだろ」
「そういうとこ優しいよねぇ。ツンツンしてるくせに、結局ほっとけないタイプ」
「優しいとかじゃない。後味が悪いだけだ」
「はい出た! そうやって素直にならんの“ツンデレ”とか古いし」
「ゴリラにデレてどうすんだよ」
「恩を売っておいて、あとから返してもらうとか? マスター腹黒だし」
「誰が腹黒だ!」
俺は軽く息を零す。
「それよかマジで王都着いたら、どーなんの?」
「あいつらも詳しくは聞かされていないらしい」
「余裕ぶっこいてるけど、内心ちょいビビってるでしょ? “王都って絶対なんかあるやつじゃん”って思ってるでしょ~」
「……別に」
「はい出た“別に”! マスターの“別に”は不安ゲージ三十パー超えてる時のやつなんだよねぇ。サリー長年の経験で分かるんだわ」
「勝手に分析するな」
「てかさ、絶対、根掘り葉掘り聞いてくるじゃん?」
「今回も無知で通すさ」
「クックック、そんな弱攻撃が通用するとでも?」
「お前は俺を不安にさせたいのか」
「違うし~! むしろ逆! マスターが変に覚悟決めて黙り込むとさ、なんか重くなるじゃん? だから軽くしてんの。ほら、サリーのや・さ・し・さ」
「お前の優しさは分かりづらい」
深く息を吐く。
「正直言うとさ、諦めてるわけだ」
「人生に?」
「今の状況にだ!
サンクチュアリに乗っている限り、異世界人だとすぐにバレる。
逃げられない。
だから足掻いても無駄だと諦めたんだ」
「最後まで……希望を捨てちゃいかん。あきらめたら、そこで人間終了だよ」
「人間って何だよ! そこは試合だろ」
「そもそもマスターは贅沢なんよ」
「どこが」
「最高のベッドと最高の頭脳、もちろんサリーのことね。それと二階には美少女。恵まれ体質なのに気づかんの、逆に才能だよ?」
「……そうか。そうだよな。サンクチュアリとケイシー。俺は恵まれているのかも……」
「ぷぷっ。好きな女の子の手も握れないけどねっ」
「最悪じゃね~か!」
そんなバカな話を続けながら、馬車の後ろを追う。
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