第41話 ベッドは時速20キロ
「――なあ、本当に馬車の手配をしなくていいのか」
ダニエルが眉を寄せたまま、こちらを見る。納得しきれていない顔だ。
「手配してどうするんです? ベッドを馬車に乗せられるとでも?」
「いや、まあ、そうなんだが。しかし、徒歩で移動となると、いつ王都につけるか……」
「このベッド、俺の移動速度と同じなんですよ」
「というと?」
「全力疾走が最高速度なんです」
じっとこちらを見る。値踏みというか、信用できるか測っている感じだ。
「う~む……。こう言ってはなんだが、ユウナギ殿は事務仕事の体。長距離走が得意なようには見えないが」
言い方に遠慮があるけれど、内容はまあまあ失礼だ。
「肉体労働に向いていないのは否定しません。けど今は疲れないんですよ。だから、長距離走じゃなくて、短距離走の速度で走り続けられるんです」
「何と?!」
サリーが前に『馬車と人間の走る速さは大差ない』みたいなことを言っていたのを思い出す。つまり、置いていかれることはない。……たぶん。
「馬車の後ろに小窓が付いてますよね。たまに振り返って、ついてきているか確認しながら進んでください」
「それはもちろんだ。ユウナギ殿が逃げるかもしれないからな」と、ニタリと笑いながら言う。
冗談半分、本気半分って顔だ。
直後、ジェイミーの拳がダニエルの脇腹にめり込み、甲高い金属音が響く。
「余計な事言うな。あたしはユウナギ殿を信じているからね」
「はいはい、その信頼を裏切らないようにしますよ」
「ケイシー殿はどちらに乗っていくの? 馬車? ユウナギ殿?」
「もちろん、ユウナギさんの専属メイドですから、離れることなどありません」
「そう言うと思ったわ」
その即答ぶりに、ジェイミーが小さく笑う。
馬車がゆっくりと動き出し、軋む音を立てながら街道へ向かっていく。
俺はその後ろに視線を合わせ、頭の中で走るイメージを思い浮かべる。すると、景色が流れ始めた。
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