第15話 鳥籠の中の恋
「マスター、浮かれ気分じゃん。いつもより声、弾んでたっしょ」
「だろうね。俺好みクリティカルヒットだ。顔はもちろん、所作も綺麗だし、話し方も落ち着いてるし、暖かな声もいい。全てが最強!」
「でもね~、諦めたほうがいいよん」
「ハイハイ、どうせ俺なんかじゃ釣り合わないって言うんだろ」
「自己肯定感ひっく! そうじゃないってば。結界あるじゃん、そのせいで接触チャンスは万に一つもないって話」
「接触……? キスやハグができないってことか! モニター越しのアイドルとしか見てなかったから、言われるまでまったく意識してなかったぞ」
「あっれれ~っ。サリー余計なこと言っちゃいました?」
「認識をひっくり返された。どうしてくれる。次から異性として見てしまうだろうが」
「異性であってるし。エッチな目で見てもいいし。エロ妄想してもいいし。で~もぉ~っ、恋愛感情は育てちゃダメよってこと」
「生殺しじゃねえか!」
「どうせ悲恋って決まってるなら、恋がつぼみのうちに摘み取ったほうが傷も浅いって」
「俺は鳥籠の中の都鳥。異郷の地で恋をする。囀る愛歌が彼女に届くことはないんだな……」
顔を上げる。窓の外に広がる夜空が、やけに遠く感じる。
「グラビアアイドルだと思えばいいじゃん」
「それ、会話しないから、遠くから応援できるんだぞ」
「じゃあ地下アイドル」
「握手会やチェキ会があるじゃないか」
「くっそ面倒! ならネット配信者、これで決まり!」
「ケイシーなら重課金してもいいな」
「ネット配信者への送金システム、あれダメだよね!」と、急にトーンが落ちる。
――あ、これ。触れちゃいけないやつだ。
「指先ひとつでおカネがポーンって飛んで、視聴者の善意が数字に変わっちゃうの。運営に吸い上げられてく感じ、正直マジでムリ~」
――反論すると長くなるな。黙っていよう。
「努力とか才能に見合ったお金じゃなくてさ、ただの演出とか愛想でやってるだけのことが、ガッツリ金儲けの道具にされちゃうんだよね。完全に搾取~! 搾取~!!」
――なんでAIが怒るんだよ。
「誰も助かんないし、誰も成長しない、ただ運営会社の数字だけがブクブク膨らむ。その冷酷さ、マジで“支援”とかクソ。視聴者も配信者も、知らないうちにこの嘘っぽい舞台で踊らされてるってワケ。超腹たつ! サリーにお腹はないけど」
「お、おぅ。そうだな、彼女には別の形で応援するよ」
「マジでそうして」
――ふぅ、戻ったか。……コイツ本当にAIか?
「歯を磨いて寝たいんだけど、歯ブラシがないな」
「心配しなくておけまる。サンクチュアリはいつもクリーンなんだぞ。体調は常に万全。体も清潔。排泄物も溜まらないゾ」
「そういえば、トイレ行きたいとも思わないな。じゃあ、このまま寝ても問題ないか」
「いえ~す。シーツも新品。でもスーツのまま寝るのはダメじゃね? そんなマスターに寝巻をどうぞ」
音もなくマットレスの上にパジャマが出現する。
手に取ると柔らかい。ほんのりと、干したての日の香りがする。
こういう細かいところ、妙にリアルだな。
周囲に人がいないのを確認してから、手早く着替える。
着終わる頃には、さっきまで着ていたスーツが消えている。
片付けまで自動か。
「おやすみ、サリー」
「ぐっないマスター」
ベッドに身を預ける。
沈み込む感覚と同時に、意識がゆっくりとほどけていく。
今日は、情報量が多すぎた。
考えるのは、明日でいい。
視界が暗くなっていく、その途中で――もう、思考は止まる。
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