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第11話 異世界人の行進

 揺れる松明の炎が、兵士たちの顔を赤く照らす。

 たしかアンダーライティングだ。通常とは逆方向の陰ができるから怖く感じる。けれど、理屈を知っていればそれほど怖く感じない。それどころか愉快に見える。


「――で、この町にたどり着いた、と」

「はい」


 ここまでの経緯を簡単に説明する。

 端折ったが、それでも十分怪しい。

 隊長らしい男が腕を組み、じっとこちらを見る。

 値踏みされている感じが露骨すぎて、居心地が悪い。


「にわかには信じ難いな……。異世界、ねえ……」

「私も困っているんです」


 むしろ説明してほしいのは、こっちの方だ。

 内心で、そう付け足しながら、表には出さないように抑える。

 隊長はしばらく黙り込み、眉間に皺を寄せたまま視線を落とす。


「ふぅ……いったいどうしたものか……」


 低いため息が漏れる。

 その重さが判断の難しさを示している。

 そこへ、一人の兵士が息を切らせて駆け寄る。


「隊長! その者が危険でないようなら、お連れしろと領主様からの伝言です!」

「危険、ねえ……」と、隊長は苦い顔を浮かべ、

「それが判断できないから、こうして悩んでるんだろうが」

「す、すみません!」


 兵士が慌てて背筋を伸ばす。

 その様子に、隊長は軽く手を振る。


「いや、お前に言ったんじゃない。独り言だ。……すまんな、行っていいぞ」

「ハッ」


 一礼すると、兵士は足早に去っていく。

 隊長は頭をガシガシとかいたあと、大きく息を吐き出す。


「ユウナギ、だったか」

「はい」

「お前、武器は持ってないよな」

「もちろんです」と、反射的に答えたが、間違えていることに気づく。


 リンダを襲った暴漢の荷物は、俺が預かっている。

 その中には剣と手斧が入っている。

 馬鹿正直に申告する必要はないだろう。見せた瞬間に、話がややこしくなる未来しか見えない。

 まあ、サリーの管理する謎の空間にあるから、調べられても問題ないのだが。


「なら、危険はなしと判断していいだろう」と、言いながらこちらを指さし、

「いいか、もし何か問題を起こしてみろ。俺の責任になるんだからな!」


 ――知らんがな!


 喉まで出かかった言葉を飲み込み、その代わりに営業スマイルを作る。


「もちろんですとも。問題など起こしません。約束します」

「その笑顔は信用できんが……まあいい、ついて来い」


 囲んでいた兵士たちが道を開け、その間を隊長が進む。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 夜の石畳が、星明かりを受けてかすかに青く光っている。

 その上を、揺れる松明の炎が断続的に照らす。


 俺はサンクチュアリの上であぐらをかいたまま進む。

 周囲には四人の兵士。

 足音が揃い、鎧の擦れる硬い音が一定の間隔で続く。


 門を抜けた先には石造りの家々が並ぶ。

 上を見れば二階の張り出し窓から灯りがこぼれている。

 戸口に立つ影がいつの間にか増え、窓の奥でも人の動く気配が重なっていく。

 ざわめきが通りを流れ、広がっていく。


「何だあれは?」

「ベッドか?」

「病人なのか?」

「いや、怪我人にしては妙だな」

「変な服だ」


 抑えきれていない声が、そのまま耳に届く。


 ――恥っず! やめろ、見るな!!


 二階の窓から子供が身を乗り出し、口元を押さえたままこちらを見下ろしている。

 その小さな手がこちらを指すと、隣の母親が慌ててその手を下ろさせる。

 しかし、当の本人も結局は視線を外さないままだ。


 通りの端では、若い男たちが腕を組み、黙ったままこちらを見ている。

 値踏みするような目つきが張り付いて離れず、なんとなく居心地の悪さだけが残る。


 耳の奥がじわっと熱くなる。

 落ち着かないまま進んでいくと、人の気配はさらに増えていく。視線も、ざわめきも、どちらも薄れる気配がない。

 耐えきれず、俺はかけ布団を引き寄せる。

 端をつかんで持ち上げ、そのまま頭まで覆い隠す。外の光と視線をまとめて遮るが、それでも、外のざわめきは消えない。

 布越しにくぐもった声と足音が途切れず続き、現実だけがじわじわと押し寄せてくる。


 異世界人であることを隠さず、堂々としていると決めた。

 けれど、この羞恥には耐えられない。


 ――頼む、どうか夢なら覚めてくれ。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になると思っていただけたら、ブクマしていただけると励みになります。

全112話 毎日投稿します。

最後まで楽しんでいただけたら幸いです。

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