8話 謹んでお受けいたします
「こんな悪魔のような顔の男が、キミのように可憐で美しい女性の隣に立ってみろ。キミにとてつもない恥をかかせてしまうであろう? だから私は仮面を外さなかった」
そんな理由で――。
『アルメリア、キミは派手なドレスを身に纏っている方が美しいよ。私は常に美しいキミと並んで歩きたい。だから私といる時には必ず綺麗な格好でいてくれ』
まだ出逢ったばかりでいくらか優しかった頃のシオン殿下の言葉を思い出してしまう。
当時は私も熱に浮かされていたから、それが当たり前、殿下の為に美しくあらねば、と思っていたけれど……。あの言葉は今思えば、私のことなんてまるで考えてくれていない発言だった。
このディアブルス様とは全く正反対。
「ディアブルス様は普段からいつも仮面を付けているのですか?」
「普段は付けない。初めて顔を合わせる場合、相手を怖がらせないように付けることはある」
この人は本当に――。
「……ディアブルス様。私は今とてもラフな格好をしております。私も毎日欠かさず派手に着飾った方がよろしいでしょうか?」
「な、なに?」
「私のような美しくない女が、綺麗なドレスやアクセサリーも着用せず隣にいてはお困りでしょう。ですから毎朝、何時間もかけて綺麗に着飾るようにしなくてはなりませんよね」
「な、何を言っている。キミは今のままでも十分過ぎるほど美人だ。ドレスやアクセサリーに関してはキミが着けたい時にだけすればいい」
「そうでしたか。ではディアブルス様も私といる時は仮面をお付けしなくてよろしいです。私は仮面のないディアブルス様の素顔の方が話しやすいです」
「本気で言っているのか? 私の顔を見て萎縮せず話ができると?」
「はい。私は今萎縮しているように見えますか?」
「い、いや確かに見えないが……」
「私はあなた様がどんなお人なのか、少しだけ理解できてきました。だからこそ、あなた様の素顔はむしろ愛らしく見えます」
「何を馬鹿な……。世辞だとしても言い過ぎだ。悪魔のような顔だと普通、思うだろう?」
「私には凛々しく勇ましいお顔にしか見えません。悪魔だなんて欠片も思いませんわ」
「ア、アルメリア……」
「ですからディアブルス様。私はこの結婚、謹んでお受け致します」
「ほ、本当か? 本当に良いのか?」
「はい」
「だが昨日までキミは私に怯えていただろう。そんなキミにこんな顔を見せたら余計に怯えさせてしまうと思ったのだが」
「申し訳ありませんが、確かに昨晩まで私はディアブルス様が恐ろしいお方だと思い込んでおりました。しかしあの契約書類を読み込んでから考えが変わったのです」
そう、私は彼の書類を全て読んで彼の人となりを少しだけ理解した。
むしろアレがあったからこそ、私はこの悪魔卿と呼ばれるディアブルス様を信じてみようと思ったのだ。
「あの契約書類にはあますところなく、契約相手に対する細かな配慮がありました。アレを作られた方は、いかに相手を不快にさせないかと考えられているのが読み取れたのです。これを作った方は几帳面なだけでなく、深く深く、相手のことを慮るお方なのだと、私はそう思ったのです」
「……ッ」
ディアブルス様は驚いた顔で目を見開き、私を見ている。
「そして今確信しました。あなた様は、ディアブルス様は信頼に足るお方だと。だから私はあなた様の妻になることをお受けいたします」
「……本当にいいのか? 後悔することになるかもしれないのだぞ?」
「いいのです。もしこれであなた様に薄暗い企みがあったのならそれはそれで致し方のないことです。もとより私の命運はすでに尽きていたのですから」
「……わかった、アルメリア。この私、ディアブルス・フィンガロンはアルメリア・リインカーネルを正式な婚約者とする。後日、婚姻の手続きを早急に行なわせてもらう」
「ありがとうございますわ」
こうして私たちは優しさに溢れた契約のもと、正式に夫婦関係となったのだった。




