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75話 兄様の様子①

「ねえケイトリンさん。これでおかしくないかしら?」


「はい」


「髪留めはこちらの方がいいかしら? ドレスもやっぱり白よりも薄い青の方がいいような……」


「大丈夫です。アルメリア様はどちらもよくお似合いですから」


「そ、そうかしら。はあ……緊張してしまうわ」


 私はとても落ち着けずにいた。


 何故なら私はついに明日、初めてアドミラル王国の国王陛下にお呼ばれしてしまったからである。


 先刻のリードハルトに関する件で私とディアブルス様はアドミラル国王陛下から、褒賞を授与したいと連絡が来たのだ。


 国交において問題の多かったリードハルトとの状態を改善したことで陛下にご招待された、というのは表向きで実のところは、


「本当に国王陛下は私なんかにお会いしたいのかしら……」


 この私をひと目みたいから連れてこい、という意味なのだとディアブルス様は言っていた。


「それは当然でしょう。なんと言ってもあのディアブルス様がお認めになられた女性とあらば、かのエルフリード陛下もご興味津々になられるのも無理はありません」


 エルフリード・イル・アドミラル国王陛下。

 このアドミラル王国のトップにして賢王とも称されるほどのお人で、歴代の国王の中でも国民からの支持率が圧倒的に高く、アドミラル王国を常により良い方向へと導いてくださっている、素晴らしい王様だ。


 私がアドミラル王国に来てディア様と結婚してから、まだ一度もこの国の国王陛下へのご挨拶は済ませていなかった。

 それというのもディア様は仕事に追われてばかりなうえ、リードハルトの件で色々あった為、時間が取れなかったからである。


「はあ。こんな華やかさの欠片もない私みたいな女が王宮に行くなんて、なんだかおこがましいわ」


「何を言っているんですか。アルメリア様はそもそもリードハルトの王宮でお仕事をされていらしたでしょう。自信を持ってふんぞり返っていれば良いのです」


「ぷ、はは。ふんぞり返って行くのはさすがにおかしいわよケイトリンさん」


「いいんです。なんならアルメリア様の方が偉いまでありますから」


「それは言い過ぎですって。でも、ありがとうケイトリンさん」


 相変わらずケイトリンさんには元気付けられる。


「そういえばロンベルト兄様の方はどんな感じなの?」


「ああ、あのゴミ屑二号……ごほん。もとい、ロンベルトは私の後輩であるニーナに指示されながら、なんとか使用人見習いの仕事をしております」


「まあ! ニーナさんを指南役に抜擢したのね。確かに彼女のお仕事は丁寧だものね。でも大丈夫かしら? ロンベルト兄様はただでさえプライドの塊のような人だから、女性に黙って大人しく従うかしら?」


「あの首輪があるので問題ありませんね。ただ彼はとてつもなく馬鹿なので、何度言っても同じ間違いを犯します。そのたびに首輪に魔力を注ぎ込んでやっております」


「そ、そう。まあ、そうよね。その為に私もアレを付けたのだし」


「アルメリア様には申し訳ないですが、ああいう愚かな男には多少痛みを伴わないと理解しないところがありますから、容赦なく痛めつけております」


「わかっているわケイトリンさん。私はあなたを信用しているもの」


 それにしてもロンベルト兄様が使用人のお仕事をやっているなんて、私が指示したとはいえ今考えても不思議だわ。


 でも兄様をこのファンガロン邸から出せばソルベントお父様が何をしてくるかわからないし、首輪を付けなければまたディア様に闘いを挑んできそうだから、こうするしかないのよね。


「……ふう。全く、アルメリア様は本当にリインカーネル家のご令嬢とは思えないほどのお人好しですね」


「え?」


「気になるのでしょう、あの愚かな男のことが。でしたら一緒に彼の様子を見に行きましょうか」


 ケイトリンさんの提案に私は頷き、言われた通り彼女のあとをついて行くことにした。


「今はおそらく一階の応接室の掃除をしているはずです」


 私も自分の仕事で手一杯だった為、ロンベルト兄様がこのファンガロン邸にいる間もほとんど会ってはいなかった。たまに遠目で見ていたくらいだ。


 兄様、どんな仕事ぶりなのだろう。


「いました。どうやら今はお皿の棚を手磨きしているようですね」


 私は開かれている応接室の扉の外から、そっと中を覗き見た。


 そこには衝撃的な姿があった。


「うわぁ……お、お兄様があんな格好で棚を磨いていらっしゃるわ……」


「まーだぜんっぜん駄目ですね。拭き方は雑だし、雑巾を綺麗に絞らないから水浸しだし、ニーナが見ていないとすぐ手を抜くし」


「でも……」


 それでも凄いことだわ。

 確かに服従の首輪があるから逆らえないのは当たり前なのだけれど、でもあのお兄様がお掃除をしている姿をこの目で見る日がくるなんて。


「あ、ロンベルト。そちらの棚ですけれど」


「なんだ? あ、いや、なんでございますか? この棚の掃除は終わったぞ、いや、終わられたです」


 耳をすますと、兄様たちの声が聞こえてきた。

 変な敬語を使っているわ……。


「はい。それですが、やり直しです」


「なん、だと……?」


「全部の段の棚のふちが磨けていません。目の届かない奥ばったところも手が届いておりません。それに水の跡が残っているので、全てやり直しです!」


 ニーナさんがニコニコと笑顔で兄様にやり直しを命じている。


「ば、馬鹿を言うな! この棚は今、一時間近くかけてやり終えたのだぞ!? あ、いや、やり終えたのでございますよ!?」


「はい! でも駄目です! ゼロからやり直してください!」


「く……! ふ、ふざけ……」


「魔力で、えーい! って、首輪にやっちゃいますよ?」


「く、ぐ……わ、わかりました……」


「よろしい、です!」


 凄いわ……。

 普段は大人しくて他者にハッキリと物言いのできないニーナさんがあの兄様を上手く手玉に取っている。


「ニーナにとっても、これはいい勉強の機会にもなりました。彼女を指導役に選んだのはこういう狙いもありました」


「そうなのね。さすがはケイトリンさんだわ」


 やはりケイトリンさんに任せて正解だった。

 これを機にニーナさんも自分に自信を持ってくれるわね。


 それにしても兄様……どこかで爆発しないかしらね。

 心配だからもう少し様子を見ましょう。


 

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