47話 リードハルト王国結婚披露宴へ
「待て! 我が国に何用だ!?」
リードハルト王国の国境に位置する関所にて、門兵たちに私たちを乗せた馬車が止められた。
御者が招待状を見せながら少し話をすると、
「……こ、これはディアブルス魔導卿の馬車でございましたか! 失礼致しました!」
門兵たちはすぐ頭を下げていたが、
「申し訳ないのですが、規則ですので一応馬車の中の御仁を窓の外からでいいのでお顔を確認させてもらってもよろしいでしょうか?」
御者がそう言われ、ディアブルス様と私に視線で確認をとる。
ディアブルス様はすぐにこくんと頷いたのち、いつもの仮面を外して見せた。
「では失礼して……ひッ」
「おい、どうした……うわ!?」
二人の門兵は窓の外からこちらを覗き込むようにするや否や、ディアブルス様のお顔を見ただけで小さな悲鳴をあげた。
私の方もチラリと見ていたようだが気にも留めていないようだ。
「か、確認しました。どうぞ」
そう言われ、私たちを乗せた馬車はようやく国境を越える。
「……どうしたアルメリア? なんだか不服そうな顔だな?」
「だってあの二人、ディアブルス様を見てあんな……」
「なに、いつものことだ」
「それにしたってあんな態度、失礼極まりないです!」
「仕方がないさ。私の顔はインパクトが強いからな。これがいつも通りだ」
「そんなことはないです! 私には凛々しくて男らしくて、でも瞳の奥は優しさが満ち溢れていて、とても素敵なお顔だとしか思いませんもの!」
「アルメリアにそう思われているだけで私は十分だよ、ありがとう」
「ディアブルス様……」
彼が優しく笑って私にそう言ってくれる。
それだけで最近の私は満足だった。
契約結婚でも十分に幸せだったはずなのに、今の私は彼に強く好意を抱いている。
いつか本当に愛し合える夫婦になれたらいいのに、な。
「アルメリア、リードハルトの王宮に足を踏み入れるのは少し怖いだろう?」
「はい……」
「だから常に私の傍を離れるな。キミのことは私が守るからな」
「ありがとうございます、ディアブルス様」
彼の優しい言葉に私はうっとりしつつ、彼の顔を覗き込む。
ディアブルス様は私の視線に気づくと慌てて顔を逸らす。彼は自分の顔を他者に凝視されるのが慣れていないのよね。
――私からすればとても素敵なお顔なのに。
「王都が遠目で窺えるな」
私の故郷リードハルト。
まさかこんな形でまた戻る日が来るなんて。
「披露宴は王宮のホールで開かれる。キミの見知った顔もいるだろうが、キミはただ私の夫人として振る舞えばいい。気後れなどする必要はないぞ」
「はい」
●○●○●
久方ぶりの王宮は懐かしいという思いよりも、相変わらず鬱屈した雰囲気を私に感じさせた。
結婚披露宴が開催されるホールに着くと、中には大勢の高位貴族が集まっていた。
「あれは……」
「ねえ、もしかしてあの人……」
「あれが例の……」
「うわ、本当に凄い顔ね」
周囲には私とディアブルス様をジロジロと見ては、ヒソヒソ話に花を咲かせている貴族夫人や令嬢たちで溢れている。
「……本当に最低」
私は見た目と噂だけでディアブルス様を悪く言う人たちに侮蔑の念を覚えていたが、
「気にするなアルメリア。よくあることだ」
「いえ、違うんです」
私のこの「最低」の言葉の意味するところは自分に対してだった。
私もディアブルス様に初めて会った時は、噂での印象を強く持っていたから。
本当の彼を知らなかったとはいえ、初めて会う人に対して得体の知れない噂だけで怯えていたからだ。
「……私も彼女たちとなんら変わりません」
「そんなことはない。キミが怯えていたのはキミの境遇と捻じ曲がった噂が相まったからだ。キミは一度たりとも私の顔を見て怯えたことなどなかった。私はそれだけで随分と救われたのだから」
「ディアブルス様……」
私は笑顔で頷いた。
周りでは多くの貴族たちが交流を深め合う中、私とディアブルス様の二人は孤立無縁状態のようになっていたが、私たちはそれ以上周囲を気にすることはなく、会場にある食事を二人で談話しながら愉しんだ。
ディアブルス様と二人でいられるなら私はもう何もいらない。
今後、この国の人たちとも交わることなどないのだし。
しばらくすると今回のパーティーの主役であるシオン殿下と聖女ロゼッタ様の二人が会場に現れた。
「皆様! 本日は新両陛下の結婚披露宴にお集まりいただきましてまことにありがとうございます!」
ああ、そうか。
もうシオン殿下は戴冠されてこの国の国王になったんだった。これからはシオン陛下とお呼びしないと。
遠目で見るシオン陛下とロゼッタ様は以前と特に変わりはないように見える。
あの顔を見ると嫌な思い出ばかりが蘇ってきた。
「大丈夫だアルメリア」
ディアブルス様が私の肩を抱いて、そうなだめてくださった。
「キミの憂いも屈辱も、今日全てこの私が晴らしてやる。悪魔卿を怒らせた罪は重いとあの馬鹿な陛下にとことん思い知らせてやろう」
ディアブルス様は不敵な笑みを浮かべてそう呟いていた。




