48話 終焉の告知
「ねえ、シオン陛下のあの噂知ってる?」
「ええ。なんでも内政をほとんど宮廷貴族たちに丸投げして、失態があればその者を処分してしまうっていうアレでしょ?」
「そうそう。だから今って王宮の内政がとんでもなくグダグダらしいし、みんなシオン陛下に不平不満ばかりらしいわ」
そんなヒソヒソ声がちらほらと聞こえる。
それにしてもシオン陛下は何故そんなことを……?
「アルメリア、これから私が行なうことに口は出さないでほしい。例え何があってもだ」
ディアブルス様が真剣な表情で突然私にそう囁いた。
彼が何をするのかはわからないが、私は彼を信頼している。彼の言葉に逆らおうなどと思うはずもない。
「はい、わかりました」
私は笑顔で頷くだけだ。
彼がやることに間違いがあるはずがないもの。
それから粛々と披露宴は進む。
「皆の者、今日はよく集まってくれた! 私はこのたび、聖女である彼女ロゼッタを妻に迎える!」
シオン陛下の隣で、最高級の豪華絢爛なドレスを身に纏ったロゼッタ様が可憐なカーテシーで挨拶してみせた。
それに合わせて周囲からは盛大な拍手が湧き起こる。
「皆様、ありがとうございますわ。わたくしは今、とっても幸せでしてよ」
ロゼッタ様は妖艶な笑みを浮かべそう答えた。
そしてあちこちからの拍手の音がゆっくり鳴り止んでいく中、いつまでもいつまでも大きな拍手を続ける者が残った。
「ありがとう、もう十分だ」
シオン陛下はその拍手の音がする方へとそう言ったが、拍手は鳴り止まない。
どうやら多くの人だかりのせいでシオン陛下からは拍手の正体がわからないようだ。
「おい、しつこいぞ。拍手をやめないか」
その拍手は今もなお、私の隣から鳴り続けている。
「……いやいや。これほどめでたいことはない。思わず拍手をやめずにはいられなかった」
「お前……いや、あなたは」
人だかりが割れて、私の隣でいつまでも拍手を続けていたディアブルス様の姿がシオン陛下の前へと晒された。
私はディアブルス様に言われた通り、ただ隣で黙って彼の行動を見守る。
「此度はお招きに感謝するシオン新陛下」
「忘れもしないその悪魔のような禍々しき凶悪さ。あなたはディアブルス魔導卿。ようこそおいでくださった。だがしかし、歓迎したのはあなただけだ。その隣にお連れられている女性はなんのご冗談か」
シオン陛下はディアブルス様を憎々しげにに睨め付けた後、私の顔を見るなりすぐにそんな嫌味を投げかけてきた。
「……お久しぶりです、シオン陛下」
「ふん、アルメリア。貴様、よもやまだ生きていたとはな」
それだけを言い私のことを一瞥し、シオン陛下はすぐにまたディアブルス様へと視線を移す。
「魔導卿。申し訳ないがそこの女は我がリードハルト王国にとって大罪人であり、国外追放の刑に処された者。いくら魔導卿の所有物になったからとは言え、この場に連れておられるのは困りもの。そもそもどうやってここまで来た? アルメリアはこの国に入れること自体禁じてあるはずだが」
「ええ、そうですわ。その醜悪な女はシオン陛下の最愛の父君を死に至らしめた罪深き者。皆様もよぉくご存じですわよねぇ!?」
シオン陛下の言葉を増長させるかのように、彼の隣にいたロゼッタ様が声高々にそう言った。
どうやら私が罪人であることをもはやディアブルス様に隠すつもりもないようだ。
「あれがあの有名なアルメリア……」
「なんでもわざとギレン元陛下からの救援要請を無視し続けたとか……」
「シオン陛下からの愛を無下に断り続けた悪女という噂も聞いているわ」
「おまけに財政資金の横領までしていたらしいんですって」
周囲からは私に対するひそひそ話が聞こえている。なんだかずいぶんと話に尾ひれ背びれが付いているわね……。
まあ、もうどうでもいいけれど。
「シオン陛下はご存じないだろうが、彼女は私の妻だ」
ディアブルス様のその発言に周囲はどよめいた。
「な、なに?」
「彼女は少し前に私の正式な妻となった。だから彼女が国外追放の刑であったとしても、私の妻である限り私と共に行動をすることを咎めることはできない」
「何を馬鹿なことを。それとこれとなんの関係がある?」
「そういう取り決めになっていたはずだが、陛下は何も知らぬのか」
「なんの話だ?」
「……話には存分に聞いていたが、どうやら本当に貴公は噂に違わぬぼんくらのようだ」
「ッな!? なんだと貴様ッ!」
「ふう……ギレン陛下から何も聞かされていないのか。とはいえ貴公ではことの重大さなど何もわかるまい」
「何故今父の名が出る!? 一体なんの話だというのだ!?」
あからさまに侮辱されていることを知ったシオン陛下はその顔を紅潮させ激昂している。反面、ディアブルス様はそんな彼へと冷酷な眼差しを向け続けた。
「シオン陛下。すまないが、私は恩を仇で返されて笑っていられるほど器は大きくない」
「貴様、さっきから何を……」
「何よりもッ!」
ディアブルス様が初めて語気を強めた。
「何よりも我が最愛の妻、アルメリアに対して行なった貴公らの行為、断じて許すわけにはいかん!」
「……ッ」
ディアブルス様の突然の激昂にシオン陛下たちは言葉を失っている。
「今日、今、この時をもって貴公……いや、リードハルトと交わした契約の全てを白紙に戻させてもらおう」
「……は? き、貴様は一体さっきから何を」
「はっきり申し上げよう。貴公とこの国はもう、終わりだ。シオン・リードハルト陛下」




