46話 まさかの招待状
私がこのフィンガロン邸にやってきてから、あっという間に二ヶ月近い月日が経った。
ディアブルス様から任されている執務にもだいぶ慣れ、私の空き時間も増え始め、色々と余裕がでてきた。
反面、私とディアブルス様の関係性はあれ以来、特に進展はしていない。
お互いに意識はしているが、それ以上は踏み込めない。そんな状態のまま、契約結婚という関係性以上になりきれていないまま日々が過ぎて行った。
いい加減、ゆっくりディアブルス様とお話しをするべきだと思いつつも、ディアブルス様も実にお忙しそうで、気づけば二人だけの時間はあまり作れずにいた。
それに彼が以前言っていた、
「リードハルト王国を滅ぼす」
という件について最近は特に気になっている。
何故ならディアブルス様から任されている資料にリードハルトに関する内容が増えてきているからだ。
それだけでなく、最近のディアブルス様は特に出かけることが多くなっており、帰宅もだいぶ遅いことが多くなった。
そういうことも重なり、あまりディアブルス様とゆっくり語らう時間がなかったのである。
「おや、アルメリア様。今日はどうされました?」
「シルベスタさん、おはようございます。今日は中庭のお掃除ですか?」
「いえ、私の趣味のバラ園の手入れです。アルメリア様こそこんな場所に何用ですかな?」
「執務の合間に気分転換でもと思って。それにしても、ディアブルス様は今日も帰りは遅いのでしょうか?」
「いえ、今日は早く戻られると思いますぞ」
「あら、そうなのですね」
「ディアブルス様本人がそう仰っておりましたから」
それなら今晩は一緒に夕ご飯を食べられるのね、と少し嬉しかった。
ここ最近、本当にディアブルス様はお忙しくされていて、夕食時も満足にご一緒できなかったから。
そしてシルベスタさんのその言葉通り、ディアブルス様は日が落ちる前には屋敷に戻ってきた。
「ディアブルス様、おかえりなさい」
私は侍女や使用人たちと一緒に笑顔で玄関で彼を出迎える。
「ただいま。どうしたアルメリア?」
「今日は早く戻られると聞いたので」
「そうか。わざわざ出迎えてくれたのか、ありがとう。では少し早いがすぐ夕食にしよう」
「はいっ」
数日ぶりに彼と一緒に夕食を共にできる。
私は年甲斐もなく浮ついた気持ちでいた。
私は先にダイニングに着くと、ディアブルス様のいつもお座りになられる席に、小さなプレゼント箱を用意しておいた。
「これは……?」
「少し早いですが、明日のディアブルス様のバースデープレゼントです!」
「そんな気遣いを……。すまない、ありがとう。開けてみても?」
「もちろんです」
「……これはクラヴァットか」
これは少し前にアドミラル城下町でマイルトン伯爵との折衝の時に買ったものだ。
すぐに手渡そうと思っていたのだが、ただ買った物を渡すだけではつまらないので少し自分で刺繍を施してアレンジしていたら時間が掛かってしまったのである。
「はい。以前ディアブルス様と町へ出た時に洋品店で見かけて、凄くディアブルス様に似合いそうだなって思ってて。も、もし不要でしたら捨ててくださって構いませんので!」
「何を馬鹿な。こんな嬉しいことはない。しかもこの刺繍は我がフィンガロン家に代々伝わる魔導紋様か。随分と丁寧に縫われている。本当にありがとうアルメリア。大切に使わせてもらう」
「……はいッ」
ディアブルス様ならそういう風に優しく受け取ってくれるとわかっているのにもかかわらず、私は彼のその言葉が聞きたくて、こんな言い回しをしてしまっている。
そんな自分が少し恥ずかしい。
「しかしこれはちょうどいいな。今度招待に預かった結婚披露宴でのパーティー会場にこのクラヴァットを付けていこう」
「結婚披露宴、ですか?」
「ああ。もちろんキミにも付いてきてもらいたいが、良いだろうか?」
「それはよろしいですけれど、一体どなたの?」
「リードハルト王国、シオン殿下と聖女ロゼッタのだ」
私は思わず目を見開く。
「ど、どういうことでしょうか?」
「驚かせてすまない。実は先日、彼の国からその招待状が届いたのだ。それにキミと出席したい」
「それは……」
それは正直行きづらい気持ちもあるが、それ以前に私は国外追放された身。リードハルト王国に足を踏み入れてはいけないのではないかしら。
「国外追放の件なら問題ない。私の妻となった者はいかなる素性であっても入国を許可してもらっている」
「そ、そうなのですか」
「どうだろうアルメリア。私の伴侶として同行してもらえないだろうか?」
「……ディアブルス様がよろしいのなら私は付いて行きます」
「もちろんキミを危ない目に合わせるつもりはない。全力でキミを守る。それだけはこの命にかえても誓おう」
「わかりました。信頼しておりますディアブルス様」
それにしてもシオン殿下とロゼッタ様の結婚披露宴だなんて。
やはりあの二人はそういう関係だったのね。
分かってはいたけれど、改めて呆れた。
それにしてもディアブルス様は私の事情をわかったうえでそんなところへ連れて行って一体何をするつもりなのかしら。




