38話 私が直接確かめてあげるわ【サフィリア視点】
「ん……あれ、ここは……?」
「あ、目覚めましたかゴミ屑令嬢」
私が目を覚ますと見たことのないベッドに寝かされていると気づく。
と、同時に嫌味なあの下女の声が聞こえた。
「誰がゴミ屑よ!? っていうかなんであなたがここにいるのよ! 下女の分際で!」
「下女ではなくアルメリア様の侍女です。アルメリア様に命じられたから仕方なく、本当に仕方なく、本当なら汚物の掃除をする方が百倍マシなのですが、どうしてもアルメリア様がお願いするから仕方なく、あなたの看病をしてやりました。死ぬほど感謝しなさい」
「くっ……本当に口の減らない下女ね!」
「ゴミ屑のゴミ的発言よりは口が少ないと思いますが?」
「「ふんッ!」」
私とこの最低最悪な下女は互いに顔を背けた。
本当にイラつくわね、この女は。
それにしても私は何故こんなところに?
「魔力の喪失による失神後は記憶が曖昧でしょうから簡潔にあなたの状況をお話しして差し上げます。あなたは器の大きなディアブルス様とアルメリア様の寛大な処置によって、このフィンガロン邸に運ばれたのです」
魔力の喪失による失神……。
と、言われてようやく朧げながら思い出す。
「目覚めたのなら私はもう仕事に戻ります。そこのテーブルに水と簡単な食料も仕方なく準備してやったので、勝手に食べなさい。そしてそれを食べたら一刻も早く帰ってください」
「いらないわよそんなの!」
「そうですか。まあ勝手にしてください。それを指示したのはあくまであなたの身を案じたアルメリア様とディアブルス様ですから」
お姉様や悪魔卿がこの私を……?
なんだってそんなことを。
「それでは私は失礼します」
さっさと出ていけこの馬鹿下女め。
と、思いつつ私に背を向けた彼女を睨みつけていると。
「ああ、そうそう。それと今晩は執務室には行かないように。あなたのせいでアルメリア様とディアブルス様は仕事がまた増えてしまったのですから」
「は? 何よそれ?」
「ゴミ屑に話しても理解不能かと」
「いいから教えなさいよこの馬鹿下女!」
「……ふう。あなたが連れてきた山賊たちの件で色々と調書をまとめているのですよ。彼らの処分の為の」
「別にアレは私が連れてきたわけじゃないわ! 勝手に襲ってきたのよ!?」
「同じようなものです。あなたがあんな所であんな奴らに捕まったせいでこんなことになっているのですから」
「別に捕まりたくて捕まったわけじゃないわよ!」
「全く……ディアブルス様もアルメリア様も人が良すぎます。まさかあのような賊たちにもこのような情けをかけるとは……」
「はあ? 何よそれ?」
「だから、あなたのせいなんですよゴミ屑令嬢。だいたいあなた、あれだけの魔力があるならどうして賊に捕まったんですか?」
「いきなり馬車を倒されて困惑してたらすぐに封魔の縄で縛られちゃったんだから仕方がないでしょう!?」
「ふん。一流の魔導師であるなら封魔対策に別のデバイスを用意しておくものです。ディアブルス様ならどんな状況でも必ずなんとかしてますからね」
「う、うるさいわよ! だいたい私は……」
「あなたの戯言はもう聞きたくないです。とにかくさっさとこの屋敷を出て行ってください。出て行かないなら、決して執務室にだけは行かないように。それでは」
それだけを言い残し、馬鹿下女は部屋を出て行った。
それにしてもお姉様はこの屋敷で一体何をされてるのかしら。執務室って言っていたけれど。
と、思ったところで私はピンときた。
「そういえばリインカーネルのお屋敷にいた頃からお姉様って事務仕事ばかりされていたし、シオン殿下に見初められたのもそれが理由だったわよね」
アルメリアお姉様が鬱陶しかった私はなんとかしてお姉様をリインカーネル家から追い出したかった。
そんな折、貴族間でシオン殿下が執務能力の高い女性を探している噂を聞きつけ、私はシオン殿下になんとかお会いし、そしてお姉様を売った。
実は私はシオン殿下が企んでいた悪事について事前に知っていたのだ。
だから殿下の妻となった後、すぐにアルメリアお姉様が無実の罪で追放されることまでわかっていた。
そうなればきっとお母様も自分の誤ちに気づくだろうと思っていたし、現にお母様は反省して修道院に行くことになった。
あんなお姉様を貴族の娘として育ててしまった罰をお母様は受けたのだ。
私を認めない者たちは皆、それ相応の罰を受けるべきだし、実際そうなった。
だからそんな者たちが幸せになんかなっていいはずがない。
「お姉様はきっとここでも事務仕事を押し付けられているんだわ」
ということはアルメリアお姉様はもしかすると悪魔卿に都合よく使われているのかもしれないわね。
「……うふふ、なーんだ、そういうことね。だったら私がこの目で直接確かめてあげるわ」
私はアルメリアお姉様がこき使われている現場を見に行くべく、フィンガロン邸内にある執務室を探し回ることにしたのである。




