37話 魔導卿たるゆえん
「あははは! なんですの悪魔卿!? アルメリアお姉様の代わりに死にたいんですの!?」
我を忘れているサフィリアはもはや眼前にいる者に対して全てに敵意を剥き出しにしている。
「サフィリア、と言ったか。アルメリアの妹とのことなら手荒な真似はしたくなかったが……」
ディアブルス様はそう呟きつつ、魔導術式が刻まれた革製の白いグローブを両手に装着した。
「なんですの? 私に歯向かうおつもりですの?」
「もうやめろ。実の姉を手に掛けるな。お前には将来があるのだろう?」
「悪魔卿が偉そうにッ! 私は、私はねえ! 私に対して偉そうな奴が大っ嫌いなんですわよッ!」
「落ち着け。本当にお前の魔力は暴走しかかっている。これ以上感情に魔力を委ねるな」
「うる、さぁぁぁーッいッ!!」
説得虚しく、やはりディアブルス様の声も届くことはなく、サフィリアはその手のひらに凝縮させた魔力で大小様々な氷塊を無数に生み出し、そしてそれをディアブルス様へと向かって撃ち放った。
四大元素の水属性に高い適性を持つサフィリアは、その魔力を水に関連させた物質へと変換させることが得意だ。
ただ私が覚えている限り、彼女があれほどの質量の氷塊を生み出したのはみたことがない。
おそらくまだまだ彼女の魔力は成長していたのだろう。
やはりサフィリアは魔力に恵まれているのね。
「ディアブルス様ッ」
私の眼前で私を庇うように立つディアブルス様の身を案じたが、何故だか不思議とそれほど不安はなかった。
「安心しろアルメリア。キミも彼女も救う」
そう言うとディアブルス様は襲いくる氷塊に対して、魔力を込めた両手の指で虚空に術式を素早く描いた。
瞬間、パァッと大きな淡い光を放つサークルがディアブルス様の前に障壁として現れた。
その障壁はサフィリアが生んだ氷塊が衝突すると、次々にあっさりと融解していった。
魔力はなくとも魔力や魔導に関する知識だけはある私には、これがどんな凄いことなのかすぐにわかった。
魔力障壁をあれほどの速度で作り出すことも当然ながら、あのサフィリアの高密度な魔法をあっけなく打ち消しているだけでその魔力の質の高さを窺わせる。
「はあッ! はあッ! な、なんですのそれは!?」
大量の魔力を一度に放出したサフィリアは肩で息をしている。
「お前は確かにアルメリアの妹に相応しい高い魔力を持ち合わせているようだが魔導師としてはまだまだ三流だ。魔法とは、こう使う」
ディアブルス様は冷静に、かつ迅速に人差し指の先端をサフィリアへと向け、
パシュッ!
という鋭い音と共に閃光のような何かをサフィリアの身体の中心部へと向かって穿ち、そしてそれはサフィリアの胸を貫いた。
「サフィリアッ!?」
直後、サフィリアはまるで壊れた人形のようにその場へと崩れ落ち、意識を失った。
「え……ディ、ディアブルス様……? ま、まさかサフィリアをころ……」
「大丈夫だ、アルメリア。死んでいない」
「で、でもディアブルス様から放たれた閃光は確かにサフィリアの胸を貫いて……」
「あの魔法は魔力の源だけを一時的に封印する魔法だ。強制的に彼女の魔力の流れを断ったのだ」
なるほど、そういうことかと私は納得した。
魔力の流れが断たれると人は意識も消失しやすい。それでサフィリアは気を失ったのだろう。
「補足するとあの光線に殺傷能力はない。そういう風に魔力を凝縮させてある」
それにしてもさすがはディアブルス様だ。
魔導卿と呼ばれるだけあって一流の魔導師でもあるということは知っていたが、本当に魔力の扱いに長けている。
彼は知識も人柄も、そして強さにおいても完璧なのね、と改めて感心してしまった。
「そこの従者」
ディアブルス様がフレックさんを見て呼んだ。
「は、はい!」
「すまないが彼女を抱きかかえて、私の馬車に乗せてもらえないだろうか。お前たち共々、我が屋敷でしばし休むといい」
「で、ですがその……ディアブルス卿、我々もディアブルス卿のお屋敷にお邪魔してしまってもよろしいのですか?」
「なに、構わん。お前たちの馬車もどうやら修理が必要だろうしな。御者の者たち共々皆で我が屋敷に来るがいい」
「あ、ありがとうございます、ありがとうございます」
フレックさんと御者が何度も頭を下げてお礼を言っていた。
「アグナス、護衛ご苦労だった。助かった」
「いや、僕は今回何もできなかったよ。ディアのおかげさ」
「そんなことはない。お前がいなければ山賊たちはアルメリアたちをも拉致していただろう」
「ああ、そういえばディア。この山賊たちはどうする?」
「彼らもこのままにはできん。後で私の屋敷から数台馬車を送るからすまないがアグナス、お前が縄に繋いだまま彼らを我が屋敷に護送してくれるか?」
「まーたそういうことを……。まあいつものことか。わかったよ」
アグナス様は呆れたように頷いている。
また、とはどういうことだろう。まさかディアブルス様は山賊たちを自らの手で処分するのだろうか。
「怖い思いをさせてすまなかったなアルメリア。ケイトリン、お前もよく頑張ってくれた。礼を言う」
こうして私の初の折衝は、色々な事件があったものの無事終わりを告げたのだった。




