34話 私のコレはださいのか?
それからアグナス様とディアブルス様のお二人で、動けなくなった賊たちの武器を取り上げ、ロープで改めて拘束し直した。
「あの、ところで何故ディアブルス様はこんなタイミングよくここに?」
「救援信号が届いたからだ」
「救援……信号?」
私が不思議な顔をしているとケイトリンさんが近づいてきた。
「アルメリア様、私から説明致しますね――」
彼女の説明によると、彼女が私に昨晩手渡してくれたあのナイフが救援信号の役割を果たしてくれたのだそうだ。
あのナイフはディアブルス様が作られた魔導具のひとつで、ディアブルス様がいざという時の為にケイトリンさんへと託しておいたのだとか。
そのナイフは、その刃に生物の血が付着することでディアブルス様の元に救援信号が届く仕組みになっていたらしい。
「だからこそ私は昨晩アルメリア様にナイフを預けておいたのです。もし変な男に襲われそうになったら、それを使ってもらえればディアブルス様がすぐ駆けつけてくださるので」
ケイトリンさんはアグナス様のことを見ながらそう言った。
そんなアグナス様はサフィリアたちの元へと向かい、
「ぷはっ!」
彼の手によって拘束されていたサフィリアとフレックさん、その他、木陰に縛られていた彼らの御者も解放された。
「ありがとうございますありがとうございます!」
フレックさんはぺこぺこと何度も頭を下げていたが、
「全く、なんで私がこんな目に……!」
「お、お嬢様、さすがにお礼を申し上げた方が……」
「うっさい!」
サフィリアはあんなことがあった直後だと言うのに相変わらずだった。
「ねえサフィリア、あなたたちどうしてこんな所にいるの?」
私が尋ねると、彼女はフンッと鼻を鳴らした。
「私はねえ、この地で例の悪魔卿の悪評を聞いて回っていたんですのよ!」
「ど、どういうこと?」
「お馬鹿なお姉様の目を覚させてあげようと思ったんですわ! アルメリアお姉様はお馬鹿だから、どうせ悪魔卿に騙されているだけだと思ったんですのよ!」
「私が騙されている?」
「ええ! 悪魔卿についてはアドミラルでもロクな噂なんてありませんでしたもの! だから、フィンガロン領で住む者たちの話を聞きにきたんですのよ!」
「……ですがフィンガロン領に住む者たちからの評判は私どもの想像とは違う話ばかりだったのです。そこでサフィリアお嬢様は直接ディアブルス卿のもとへ行くつもりだったのですが、運悪く先ほどの賊に襲われてしまった、というわけでございます」
「フレック! 何勝手に話してるのよ!」
フレックさんが代わりに説明してくれたので大体のことはわかった。
サフィリアは昨日のことが納得いかなかったのね。彼女のこの性格からして、あのまま引き下がるわけはないと思っていたけれど、まさかここまで来るなんて驚いたわ。
「……で、お前たちは私のもとへ来て、何をしたかったのだ?」
仮面を付けたディアブルス様がサフィリアたちの前へと歩み寄ってそう尋ねる。
「私のって……さっきから何よあなた? だっさい仮面付けて」
どうやらサフィリアたちは彼がディアブルス様だと気づいていないようだ。
「だ、ださ……私のコレはださい、のか?」
あ、なんだかディアブルス様少し落ち込んでる。
「ええ、すっごいださいわ! その仮面、あの有名ブランドのなんでしょうけど、相当古いタイプのモデルよ。当時でもださすぎて付ける人なんてほとんどいなかったからすぐに廃れたのに、いまだにそんな時代遅れの超ださい仮面付ける人なんているのね」
「……私のお気に入りなのだが」
「ええー、あなた趣味悪すぎだわ。はっきり言って超キモいわよ。それまさかとは思うけど人前で付けるのだけはよしなさいよね。間違っても隣を歩きたくないわ」
「そうか……気をつける……」
ディアブルス様が思いの外落ち込んでいるわ。
初めて見た時、彼はあの仮面をお気に入りだと言っていたけれどあれは冗談ではなく本気だったのね。
それにしても気づいていないとはいえサフィリアも言い過ぎだわ。ディアブルス様、怒らないかしら。
「で、あなたは一体なんなのよ? なんかださい仮面付けてる割にはさっきから偉そうだけど」
「私は彼女の夫だ」
「彼女? 誰のことを言ってるの?」
「あそこにいる黒髪の彼女だ」
「へ? ア、アルメリアお姉様の?」
「そうだ」
「え、じゃ、じゃあもしかしてあなたが……」
ようやく気づき始めたサフィリアが顔を強張らせていく。
「私がこのフィンガロン領の領主、ディアブルス・フィンガロンだ」




