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33話 私の旦那様 

「おい、お前たち! 少し聞きたい! 何故、そのご令嬢たちの馬車を襲った!?」


 ケイトリンさんに指示された通り、アグナス様が奴らに向かって時間稼ぎを始めた。


「あん!? そんなの決まってんだろ! 俺たちゃ山賊だ。裕福そうな奴らから奪って、攫って、生計を立ててんだよ!」


「愚かな……真っ当な職につけ! そんなことをしてもいつかは無様な未来しか残されていないぞ!」


「真っ当な? くはははッ! これだから良いところの騎士団長様は! 俺たちみてぇなのはなぁ、生まれた時からこうやって生きるしかねぇから、今こうなってんだよバァーカッ!」


 山賊の頭が大笑いし、子分たちも冷やかすように嘲笑っている。


「そうなってしまったのは我々貴族の力量不足でもある! このフィンガロン領の領主、ディアブルス卿に代わって僕が詫びよう。だが、そういうことならお前たちの言い分を聞き入れ、多少の生活支援、将来設計の支援も視野に入れる! だからその御仁らを解放してやってはくれないか!?」


「俺たちの将来設計、だあ!? じゃあ何か? 俺たちが今まで犯した罪全部を無かったことにしてくれんのか!? ぶっ殺した人の数、奪った金品、そういうのもお咎め無しってことなんだよなあ!?」


「違う! それには相応の罰を受け、それから更生する際には助力をしようと提案しているんだ!」


「話になんねぇよブァァァーカッ! んなもん、お上に処遇を任せたら俺ら全員死罪に決まってらあ! 殺されるのをわかってて自ら捕まる馬鹿がどこにいやがんだ!?」


「「ぎゃははははッ!」」


 山賊たちは下卑た笑いでアグナス様を煽った。


「まあ聞け! 僕はこう見えてもアドミラル国王には顔が効く。お前たちの処分を軽くしてもらえるよう話をつけてやってもいい!」


「だーかーら、んな話は信用ならねぇってんだよ!」


「ではこう言うのはどうだ? 僕が今持っている金貨を手渡そう! 僕は今、手持ちでも30金貨くらいはある!」


「30金貨……? ほう? 金のことなら少し話を聞いてやるぜ? だが、たったのそれだけじゃあこの女どもは解放しねぇけどな?」


 アグナス様は次から次へと山賊の興味を引くような話を続けていく。

 さすがはアグナス様だ。彼らが癇癪を起こしたりしないよう、バランスよく交渉術を施行している。


「ふふ」


 後ろでケイトリンさんが不敵に笑った。


「――よし、わかった! ではまず手付金としてこの金貨30枚はお前たちにやろう! 僕の剣はここに置く、そちらに手渡しに行っていいか!?」


「だがテメェはダメだ! 後ろの……そうだな、その黒髪の女に持って来させろ!」


「なんだと!?」


「騎士団長様じゃあ近づいた途端何されるかわかんねぇからなあ? それが駄目ならテメェの話はもう聞かねえよ!」


 アグナス様が私とケイトリンさんを見る。

 私もケイトリンさんもこくんと頷いた。


 きっと、ケイトリンさんはもう大丈夫だと判断したのだ。そうでなければこんな場面で何も言わないわけがない。

 彼女を信頼しているからこそ、私は何の恐れもなく頷いたのだ。


 私はアグナス様から金貨が入った袋を手渡され、それを持ってゆっくりと山賊らの方へと歩み寄った。


 チラリ、とサフィリアたちの方に視線を移す。

 見たところ怪我とはしていなさそうでひと安心した。


「よし、女! それをここに置け!」


 山賊の頭の近くまで私が近づき、命じられた通り私は地面に金貨袋を置いた。


「くくく! 馬鹿な奴だぜ。金を貰ったからってコイツら人質を解放するわけがねぇのによぉ! ついでに……お前も人質にしてやるよぉ!」


 山賊がそんな下衆な言葉を放ち、私の腕に手を伸ばして私も捕らえようとしてきた。


 その時である。


「愚かな。私の妻に何をするつもりだ」


 聞き慣れたこの声。


 ああ、やっぱり来てくれた。


「うぐ!? な、なんだ!? か、身体が動かねぇ!?」


「か、頭(かしら)ァ! なんすかこりゃあ!? 足も手も動かねえっすよぉ!」


 山賊たち全員がその場にて、まるで金縛りにあったかのように身体を硬直させていた。


「大丈夫か、アルメリア?」


 そんな中、山賊たちの間を堂々と割って入ってきた私の旦那様、ディアブルス様が、私の方へと歩み寄って来てくれた。

 いつもの仮面を付けているとはいえ、その声色だけですぐにわかる。彼が私の身を案じてくれていることを。


「はい、ディアブルス様!」


「アルメリア、よかった……」


 ディアブルス様は少し震えていた私の肩をポンと優しく撫でてくれた。


「あの、ディアブルス様。これは一体どういう状況なのでしょうか?」


「私の魔導具でこの周囲に結界を張ったのだ。あとはその結界に私の魔力を注いで対象の人物に身体拘束の術式を施した。少し準備と手間のいる罠のような魔導具と魔法でな。こういう周辺が林で隠れやすい奇襲のような場面でしか使えない」


 さすがはディアブルス様だ。

 魔導卿と呼ばれるだけあって、魔導具の扱いやそれに関連する魔力の扱いは突出している。


 と、私が感心していると。


「きゃっ!? ディ、ディアブルス様?」


 私はディアブルス様に抱きしめられていた。


「本当にキミが無事でよかった……」


 彼の言葉とぬくもりに凄く安心する。

 やっぱり私はディアブルス様の傍が一番の居場所なんだわ。




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