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28話 許せない【サフィリア視点】

「いたっ、いたたたっ! ちょ、おやめくださいサフィリアお嬢様! いた!」


「うっさいわよ!」


 アドミラル城下町から出て、リードハルト王国へと続く国境の関所へと向かい行く馬車の中。

 私は行き場のない怒りの矛先を侍従のフレックにぶつけまくっていた。


「あなたがいけないんでしょう!? あなたが私を強引に連れ戻すから! 私はあんな屈辱、初めて受けたのよ!? あの場でやり返さないでどうするの!?」


「わ、わかりましたから、その分厚い魔導書で私を叩くのはおやめください」


「あー、うっさいうっさいうっさい!」


 許せない許せない許せないッ!


 何故、どうして私があのような侮辱を受けなければならないのか。

 怒りで頭がどうにかなってしまいそうなのを、仕方なくこの使えない従者のフレックにぶつけている。


「元はと言えば、あなたがいけないのよ! アドミラルはアップルパイが有名だとか言うから……だからお姉様みたいな疫病神に出逢ってしまうし、この私があんな目に……ッ」


 ギリギリっと奥歯を噛み締める。

 久方ぶりにお会いしたアルメリアお姉様は、私が想像に描いていた様子とは正反対であった。


「お姉様がまさか……あの悪魔卿の妻になってるだなんて! あんなの嘘に決まっているわ! だいたい変人悪魔卿にそんな権力があるだなんてことも初耳だし!」


「で、ですがアグナス様が仰っているのなら事実かと」


「うっさいわ!」


「あいた!」


 口の減らない従者を私はまた叩いてやった。


 せっかくリインカーネル家の未来がより良くなる為に……そしてにっくきアルメリアお姉様を不幸のどん底に落としてやる為の算段だったというのにッ!


「アルメリアお姉様が私よりも地位が高くて幸せだなんて、絶対に、絶対に許さないわ……ッ!」


 アルメリアお姉様をリインカーネル家から体裁よく追い出し、そして王宮からも追放され、行き場をなくし絶望する。


 そうなってしまえば良いと思ってシ(・)オ(・)ン(・)殿(・)下(・)に(・)お(・)姉(・)様(・)を(・)売(・)っ(・)た(・)というのに。


 私が今回アドミラル城下町に訪れていたのは単なる旅行でもあったのだが、一番の目的はアドミラル国内であの有名な変人悪魔卿のもとへと連れて行かれた、アルメリアお姉様の噂を聞こうと思った為である。


 町中で聞いた噂話だと、


「悪魔卿は最近、また新しい令嬢をリードハルトから献上されたらしいね」


 くらいなものだった。


 今度は代わりに悪名高いディアブルス悪魔卿について尋ねると、


「悪魔卿は山奥に隠れ住んでいて滅多に人前に現れない」

「悪魔卿は令嬢を生贄に悪しき魔導儀式を施術している」

「悪魔卿は悪魔に取り憑かれており世にも恐ろしい形相をしている」


 など、どれも嘘なのか真実なのか信じ難い話しばかりであった。


 悪魔卿が魔導研究や知識、実績などで偉業を残した人物であるという話は当然聞いているが、それ以外に関しては奇妙な噂しかない。


 だからこそ、当然アルメリアお姉様はとんでもない不幸な目にあってるに違いないと信じていた。


 それなのに。


「悪魔卿がアドミラル王国の権力者で、その妻となったアルメリアお姉様が同等の権力を持っているなんて……ありえないわ! そうでしょうフレック!?」


「そ、そうですねえ。ディアブルス魔導卿といえば、アドミラル城下町でもあまり良い評判はなさそうでしたのに、不思議ですねえ」


 やはり悪魔卿に関しては、彼の領地であるフィンガロン領の山奥から少し離れている同国のアドミラル城下町でもロクな評判はない。

 だがしかし、アドミラル王国のみならずリードハルトにもその武勲で知られる、あの騎士団長アグナス様ほどの人があそこまで言うというのは、何かがおかしい。


「だからあんなの何かの間違いなのよ! ……アグナス様はおそらく悪魔卿に弱みを握られているに違いないわ。そうよ、それなら納得だわ。アグナス様ほどの人があの変人悪魔卿を擁護するのには、理由があったのよ!」


「そ、そうなのでしょうか?」


「あなただってわかったでしょう? 悪魔卿はやはりロクな人物じゃないのよ。ここからは私の予測だけれど、おそらくアグナス様には何かしらの魔法が掛けられているわね」


「魔法、ですか?」


「ええ。それはきっとアグナス様を監視するような魔法よ! それによってアグナス様を従えているんだわ。きっとそうやって自分に都合の良い令嬢を集めているのよ。そうでなきゃあの悪魔卿を庇うだなんておかしいじゃない!?」


「単純にアグナス様とディアブルス魔導卿が懇意の仲という可能性は……」


「あるわけないわよ! 悪魔卿と仲の良い人なんていないってアドミラル城下町の人々も言っていたじゃない!」


「そ、それはまあ……」


「やっぱりそうよ、そうなのよ! ピーンと来たわ。フレック、今すぐ馬車を引き返させなさい!」

 

「え、ええ!? ど、どこへ……」


「決まっているでしょう!? アドミラル王国、フィンガロン領方面よ!」


 私は思いついた。


 面倒なことなどせず、直接フィンガロン領へ向かえばいいのだと。

 その領地の人たちから情報を集めるのだ。そして裏付けが取れたのなら、その情報を元手にお姉様に関する真実を突き止めてやるんだ。


 そうしてもう一度お姉様に会って、嘲笑ってやるのだ。 


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