21話 女の戦い
「アルメリア様、口を挟むのは失礼と存じ上げますが、こちらの残念なお方は妹ぎみであられますか?」
サフィリアに衝撃の事実を突きつけられ、呆然と立ち尽くす私にケイトリンさんが初めて介入してきた。
「あ……その……ええ。彼女は妹の……」
「はあ? 何かしらあなた。誰が残念、ですって?」
私が答える前にサフィリアが食い気味に反応した。
「これは失礼。申し遅れました、私は……」
「ああ! わかった! あなたアルメリアお姉様の同僚の方ね? さっきから遠目で見ていたけれど、アルメリアお姉様と何やら楽しそうにおしゃべりしていたものね。大方、悪魔卿にこき使われてる下女と言ったところかしら?」
「……下女」
それまで表情をほとんど変えなかったケイトリンさんが、眉をピクリと反応させる。
「それとも悪魔卿の性奴隷とか? まああなたはいくらか髪色も可愛らしいし、夜の相手くらいにはちょうどいいかもしれないわね? でもお姉様に限ってはあり得ないわね。お姉様に女としての魅力なんて皆無だもの」
「そうですね。アルメリア様に限ってそれはあり得ないです」
ケイトリンさんがサフィリアの言葉に同調している。
それも当然よね。私なんかがディアブルス様に女として見られて愛されるなんて、あるはずない。
ケイトリンさんやルチスカさん、他にもフィンガロン邸には私なんかよりも美人で容姿の素晴らしい人たちがたくさんいる。
だからディアブルス様は私に夜の相手だって求めてはこない。
私はあくまで仕事上の都合の良い女なのだから。
でも私はそれでいい。それだけでも十分。それ以上なんて望んではいけない。
「あら? あなた意外と話がわかるのね。そう、アルメリアお姉様なんか――」
「アルメリア様に限って、そんな分不相応なことはあり得ない。アルメリア様ほど、能力の高い素晴らしい女性は同じ同性としてこれまで見たことがありません」
「は?」
え……?
「アルメリア様は私からすれば雲の上のお方。私と同僚扱いだなんて滅相もない。アルメリア様は、この世界でも最高峰の頭脳と魔力を持つ侯爵様であらせられるディアブルス・フィンガロン様の正妻であらせられますので」
「は、はあ? 正妻?」
「ええ。わかりやすく申し上げるなら、ディアブルス様の正妻とはつまり、実質この国ナンバー2の権力者であるのと同意義です」
「な、何よそれ。あなた、一体何を言っているの?」
「どうやらあなた様は、アルメリア様の妹ぎみとは思えないほど、思慮が浅く、知識も無く、世間も知らず、品性すらも存在しないようですので簡単に説明して差し上げます。ディアブルス様はこのアドミラル大国において国王の次に権力を持つお方です。そのお方の正妻はこの世でただひとり、アルメリア様以外に存在致しません」
「な、な……そんな大袈裟な……」
「ちっとも大袈裟なんかではありませんよ? ディアブルス・フィンガロン様とはそれくらい偉大なお方なのです。とはいえ、一般庶民やそれ同等くらいの爵位の家系のお方では、そんな常識など知らなくても仕方のないことですから、どうかお気になさらずに」
「ふ、ふざけないで! あなた、さっきから何? 私を馬鹿にしているの!?」
「あ、どうやら馬鹿にしているというのはお伝わりになられたのですね。よかったです。あまりに思考レベルが低すぎて、それすら伝わっていないかと思いました」
「わ、私を誰だと……! 私は由緒正しいリインカーネル家の中でも随一の魔力と美貌を持った……」
「アルメリア様」
ケイトリンさんはサフィリアの言葉を無視して私に向き直る。
「こちらのゴミ屑がアルメリア様の妹ぎみと言うのは嘘でございますよね?」
「だ、誰がゴミ屑ですって!?」
「ああ、失礼。ゴミ屑はまだ燃やせて燃料になるだけマシでした。ゴミ以下の産業廃棄物ですね。環境汚染の原因とも言えます」
「こ、こっの……たかが下女の存在でっ」
「あなたのような愚か者がアルメリア様の妹だなんてあり得ません。アルメリア様、嘘と仰ってください。そうすれば今すぐにでもこの無礼な女を死罪にしてもらえるようディアブルス様からアドミラル王にお願いしてもらいますので」
ケイトリンさんが見たこともないくらい饒舌になっていて、私は思わず目が点になってしまった。
「あの、ケイトリンさん。私はそこまでは……」
「はん! できるものならやってみなさいよこのホラ吹き下女が! あなたみたいな口だけの嘘つきなんて、どこにでもいるのよ! なーにがディアブルス様はこの国ナンバー2よ! そんなわけあるはずがないでしょ? ばっかじゃないの! あんなのただの変人でしょ!」
サフィリアも顔を真っ赤にして怒り心頭だ。
「愚かな……アルメリア様だけでなく、我が主人まで侮辱するとは。とことん救えませんね。申し訳ありませんがこの場で殺処分した方がよさそうです」
ちょ、ちょっと待って待って!
なんだかケイトリンさんが盛り上がりすぎてる!
「お、落ち着いてケイトリンさん。サフィリアも、もうやめて。私のことはもう構わないで……」
「アルメリアお姉様ったら、なんだか都合の良い下女を従えたんですのね? まあお姉様みたいなブッサイクな女は悪魔卿みたいな変人の妻がお似合いかしら? あははは!」
「ぶっ殺す」
「待って待って待って待って!」
ケイトリンさんが懐に忍ばせていたナイフを取り出そうとしたので、私は全力でそれを止めた。
殺気が本気なんだもの。
で、でもでも、どうしよう、どうしよう!
二人の喧嘩は収まりそうにないし、サフィリアの従者らしき人はずっと後ろの方であたふたしてるだけだし。
誰か二人を止めて!
と、私が困り切って願っていると。
「はいはい、そこまでにしようねケイトリン」
本当に私の願い通りに助けが現れた、のだけれど。




