第15話‐⑪
そしてその日の夜。
眠ってしまった白虎をそのままにしたまま、葵は部屋で夕食を食べた。
食欲はあるようでおかわりまでもしてしまった。
それもそのはず、葵はここ最近まともな食事をしてこなかったのだ。
怪我で2週間も寝込んでいては当然お腹も空く。
その間は魔法で栄養を流していたので特に身体に異常はないのだが、栄養だけとなると空腹感は当然あるし、喉の乾きも同様だ。
胃に優しめのスープにパン、サラダともぐもぐ食べる葵の様子をアイルは温かい眼差しで見つめていた。
「……あの、あたしを見ても何も出ませんよ?」
それに気付いて食べにくさを感じていた葵は食べる手を止めてアイル見た。
「あぁ気にしないでください、ただの観察です」
「……観察って…………食べてる最中に見られては誰でも気にすると思いますけど」
「こうやって葵さんが動いている所を見れるのがとても嬉しくて」
「…………」
その言葉に葵は押し黙ってしまった。
アイルには色々と迷惑を掛けてきた。怪我をし、アイルの前で血を吐き倒れた己を顧みればアイルの言っていることに少し同情してしまったからだ。
葵は気まずそな、申し訳なさそうな表情を浮かべて口を開いた。
「……今思えばあたしはあなたの前でみっともない所ばかり見せていましたよね……自分勝手な行動や言動、その他にも沢山ありました……改めて色々と反省しなければなりません、本当に申し訳ありませんでした」
葵は心の底から思っている事をアイルの目を見て謝罪した。
足はまだ動かせないのでベッドの上には簡易的な小さめの机の上に食事が置いてあり、土下座は出来ないがせめてもと思い軽く頭を下げた。
食器類に当たらないギリギリを責めながら。
自分勝手な行動のせいでどれだけの人に迷惑を掛けたのか。
落ち着いてきた今、冷静になってみると自分の身勝手な行動に吐き気がする。
これは怒られて当然だなと思いながらアイルの言葉を待つ。
ベッドに腰を下ろしながらそんな様子の葵を見てアイルは葵の頬に片手を添えた。
「っ……」
葵は急の出来事に身体をビクつかせる。
怒られるのかもと思い身構えていたら自身の頬に触れてきた。
そしておでこに軽くキスを落とした。
「っ……な、な……!?」
びっくりしすぎて言葉が出てこない。
アイルはにこりと微笑むと頬から手を離した。
「先程も同じ様な事を言いましたよね……わたしは今までの葵さん含めて好きになったのですよ、謝罪などしないで下さい」
「っ……」
その言葉に葵の胸が暖かくなるのが分かる。
普通なら怒られて当然の言動をしたのにも関わらず、こんな激甘な言葉を言ってくるなんて思ってもみなかった。
葵の今までの言動を否定するのではなく、それも含めて好きだと言ってくれたアイルにどうしようもない気持ちになる。
「……あ、アイルはあたしに優しすぎます!もう少し怒ってもバチは当たりませんよ!」
葵はふいっとそっぽを向いた。
照れ隠しである。
今までそういう感情を向けられたことがないので何もかもが初めての感情なのだ。
大人という生き物は皆年下に対してこういう反応をするのだろうか。
だとしたら、この世界の年下の生き物は皆ワガママになってしまう気がする。
耳まで真っ赤になっている葵を見てアイルはクスクスと笑う。
「怒ってほしいのですか?変わった趣味ですね」
「なっち、違います!そういう事を言っているのではなくて……!」
「葵さんは十分苦しみました。それで十分ですよ」
「……っ…………」
その優しさに言葉に詰まる。
嬉しい言葉なのにその言葉に頷くことは出来なかった。
だって、そもそもその原因を作ったのは自分自身だ。
そういう事を言われる立場ではないし、言われたい訳でもない。
浮かない表情を浮かべる葵に対してアイルは口を開いた。
「そんな事より食事が冷めてしまいますよ、手を動かしてください」
「……はい」
葵は諦めたのか言われた通りに食事を再開したのだった。




