第15話‐⑦
「えーとどこまでだったかな……確かあたしの実家の御祭神として祀られているって所までお話してくれましたよね」
『そうだな』
「えーと……その話と白虎様があたしを助ける理由に繋がるのですか?」
『勿論だ。私はお主が生まれる前、遥か昔からあの神社の御祭神として祀られてきた。勿論、お主が生まれてからもお主を見守ってきたし、てすととやらの点数が悪い時とかよく話しに来てくれたが、その時私はお主の傍にいたのだぞ?それだけではなく、お主が私の所に来ては色々な話をしてくれるものだからその度に私はお主の傍で色々な話を聞いていたのだ…………まぁ分かりやすく言えばずっと見守って来たということだ。それがお主が生まれた瞬間からとなるとどうしても愛着というものが生まれる。お主が私を助けてくれた時はこれはもう運命だとも感じたほどだ』
長々と感動的な話をしているはずなのに、白虎はそれはそれは眠そうにしながら話すものだから、出そうになっていた涙は勿論引っ込んだ。
それにしてもテストの時の話をしてくるとは……確かにテストの点が悪い時、いつも拝殿でお話をしていたっけ。
両親に怒られる準備をしにとりあえず誰かに聞いてもらいたくてよく拝殿に行っては長々と話した記憶がある。
そこで思いの内を全部出してからの方が落ち着いて両親に言いに行くことが出来ていた。
でもまさか、近くでいつも話を聞いてくれていたなんて思いもしなかったが。
「……なんか恥ずかしい話もありましたが…それはいいとして⋯狼……道路で子供の狼……?子狼ってことだから小さい狼でしょ?え、狼?そもそもその時既に日本では狼は絶滅してるから見かけたら大騒ぎになっていそうだけど……」
そんな話聞いた事もない。
絶滅したと言われる日本で狼がいたらそれはそれはテレビにも新聞にも取り上げられるような奇跡みたいな話だ。
その話を逆に聞いていないということは幸いにも見られることがなかったということ?
(いや待てよ……狼ってよくよく見たら犬に見えるし、子狼ともなれば犬そのものにしか見えないよね?それにおいぬ様と言われるのもそういうことだよね?)
狼はイヌ科である。
大人の狼が犬に見えるかは置いておいて、子狼なら犬と見られても何ら不思議はない。
もしかしたら、狼の姿で人の世に出たはいいが、その姿は狼と認識されず、どこにでもいるような野良犬とでも見られていたのかもしれない。
それなら、葵が狼が目撃されたとかいう話を聞いたことがないのもうなずける。
葵のぶつぶつ独り言を呟く言葉を、三角のお耳をぴくぴくと動かしながら聞いていた白虎は一度閉じた目を薄らと開けて言った。
『私は犬ではないが、狼はイヌ科に属している。犬に見られる可能性は大いにあるし、おいぬ様と呼ばれているところからしてもその傾向があるようだ』
「……あたしが狼の姿の白虎様を助けたのはいつのお話なのですか?」
全部心当たりがなくて聞き返す。
そんなふたりを黙って聞いているアイルは葵の黒い長い髪をくるくると弄んでいる。
『うん?お主がまだ小さい頃だな』
「何歳くらいですか?」
『そこまでは覚えておらん。だが……今よりは小さかったぞ。私が轢かれそうになっているのを見たお主が道路に飛び出して助けてくれたのだが、その時一緒にいた留靖はそれはもう激高していたな』
「っ……おじいちゃんが一緒に?」
『あぁ、とても怒っていたがそれと同時に無事だった事に何より安心していた』
「……おじいちゃん…………」
葵はその言葉にに顔を俯かせた。
おじいちゃんが亡くなってから自分でその言葉を言う機会は殆どなかった。
それは返事をしても答えてくれない寂しさもあったし、何よりその言葉を言って一人なのだと突き付けられるのが怖かったからだ。
だから、こうやってまたおじいちゃんと言える日が来るとは思ってもいなかった。
それに、おじいちゃんの名前を知っている人が、いや知っている神様がこの世界にいるのにも驚いた。
「おじいちゃんの事知ってたのですね」
『当たり前だ。留靖も赤子の頃から知っている。そして留靖の両親もそれまた前の両親もな』
「…………そう、なんですね」
白虎は遠くを見つめるように言った。
白虎にとってもきっと懐かしい記憶なのだろう。
尻尾はゆっくりと揺れているが先程よりもしょんぼりしている気がする。
もしかしたらきっと、あの災害でおじいちゃんを亡くしたのを悲しんだのは自分だけではないのかもしれないと思った。
あの時の葵はまだ学生であり、両親と祖父を同時に無くしてしまった葵には当然遺産が入る。
だが、それに群がるように親戚の人が沢山訪れては、まだ学生の葵の面倒をみると言ってきた。流石の葵もそれはただの方便で本当は葵に入る遺産が目当てなのだと気付き、誰も信じず余計に一人になった。
それを見ていたので、心の底から祖父が亡くなった事に誰一人として悲しんではいないのだと思わずにはいられなかったのだ。
だが、小さい頃から祖父や自分を近くで見守ってくれていた存在が、この様な反応をしてくれるということは葵と同じように心を痛めてくれたのかもしれない。
そう思うだけで葵の心は少し軽くなった気がした。




