第15話‐③
葵でも王家という立場の人達がどれだけ偉いか分かるし、逆らえる存在ではないと知っている。
だからなのか、無詠唱魔法を使える人物が現れたら必ず王家に報告をすると言う言葉にドキッとしてしまった。
クレイツおじさんのことだから、きっと王家に報告はしてないのだろうと確信が持てる。
誰にも言うなと言っていたあたり、クレイツおじさんの中ではもう答えが決まっていたのか、元々言うつもりはなかったのかもしれない。
だが、王家には必ず報告をするとアイルも言っているように本当なら葵の存在は王家に知られていなければいけない。
だがそれを怠り、ここにいるということはそのルールを破ったと言うことであり、こういう場合何か処罰がされるのかと葵は自然と身体を身構えてしまう。
ただ、葵はどの道ここにはいられない。
なら一層王家で身を保護してもらった方がいいのではないかと疑心暗鬼になる。
「大丈夫ですよ。わたしから王家に報告をする事はないですし、例え気付かれてもわたしが何とかします。それに……悪い人たちから狙われたとしてもわたしが葵さんを守りますから」
「っ……」
顔に不安な気持ちが現れていたのか、にこりと微笑みながら葵を落ち着かせてくれる言葉を言ってくれたアイルだがそこに言ってはならない言葉があった。
葵はやばいと思って口に手を当てた。
発作のこともそうだが、これで二回目の発作になる。猶予がまだあると思っていたがどうやらそれも無くなってしまったようだ。
と、ショックを隠しきれないまま発作が起こるのを待っていたが、一向にして咳が出てこない。
「あれ?」と思ってそのまま数十秒待ってみるが、やはり何も起こらない。
葵は恐る恐る口から手を退けてアイルを見つめる。
アイルは何が起こるのか先程の経験もありいつでも動ける状態にしていたのだが、一向に咳が出ない葵と目が合ってポツリと呟いた。
「……もしかして、解けている?」
「……え?」
アイルのその呟きに葵は自分の耳を疑った。
何を言うのだと、こんな簡単に呪いが解けるのならここを出ていく決断をする前に解いていると。
だが、一向に発作が起きないことは事実であり、訳がわからなくなる。
「…………わたしは葵さんを何がなんでも守ります」
「っ……ちょっ何を言って……」
「わたしは葵さんを大切だと思っていますし、葵さんが他の男に取られるのはとても嫌です」
「だから何をっ…………え?」
何を言い出すかと思えば、葵の呪のストッパーともなっている感情をアイルはすらすらと言ってきた。
何かを確信したのか悪びれる様子もなく言ってきたアイルに葵はただただ困惑気味。
そして極め付きはその呪とは関係の無いアイルの気持ちまでもを言ってこられて流石に頭が真っ白になった。
「……わたしはどうやら葵さんの事が好きみたいです。葵さんは俺の事どう思っていますか?」
「っ……」
椅子に座っているアイルは真剣な表情で告白してきた。
葵の目を見つめ、真剣な表情のアイルに何も言えない。
ただ分かるのは、そう言われて嫌だとは思わないと言うこと。むしろ喜びの方が勝っていると気付いてしまった葵は恥ずかしさのあまりふいっとアイルとは反対方向に顔を背けた。
「…………葵さん?」
「…………」
顔を背けた後ろからアイルの声が聞こえる。
バクンッバクンッと暴れる心臓に余計に恥ずかしさが込み上げてきて、その熱は耳に集中した。
(……このタイミングで何を言ってるの…………)
戸惑いと喜び、そして恥ずかしさが葵を襲う。
顔も真っ赤になっているだろうなと分かるくらい顔が熱い。
「……もしかして照れているのですか?」
「っ……てっ照れてなんかいません!」
「やはり照れているではないですか」
「だ、だから!照れていないとっ…………うわっ!?」
そっぽを向きながら素直になれない葵はアイルの言葉を全部否定した。
だが、それが気に食わなかったのかアイルは顔を背けている葵の腕を掴み、後ろに引き寄せた。
それにより葵は後ろに倒れる形となり仰向けになった。
「…ほら、照れているではないですか」
「っ……」
そして、気付いた時にはアイルの顔が上にあった。
仰向けに倒れた葵の頭のすぐ両側はアイルが両手で手を付いているため少しベッドが沈んでいる。
葵の顔を覗き込むように、アイルの後ろに縛った濃紺の髪が葵の頬に触れた。
その事実に葵の目が見開かれていく。
「…嫌ならわたしを突き飛ばして下さい」
「っ……」
そう、真剣な表情で言うアイルを葵が突き飛ばせると本気で思っているのだろうか。
葵はアイルに抱きしめられた時も、好きですと言われた時も嫌な気は一切しなかった。
それどころかむしろとても嬉しくて嬉しくて、この感情がなんなのか流石にもう分かっていた。
ただ、恥ずかしくて照れくさくて、そして自分の境遇の事があるので素直に同意ができないでいるだけで。
「……突き飛ばさないと言う事は、嫌ではないと捉えていいのですね?」
「…………それは……」
「葵さん。自分の呪いの事で遠慮しているのならそれはもう心配するだけ無駄ですよ」
「え……?」
「葵さんももう分かっているのでは?先程、わたしが葵さんの呪の引き金でもある言葉を何個か言いましたが発作は起きていません。それどころか、ぴんぴんしていますよね?」
「……それは……まぁ確かにそうですけど……」
「どういう経緯で呪いが解けるかは分かりませんが、それを顧みるともう既に葵さんの呪いは解けているのではないですか?」
「…………」
もしかしたらとは思っていた。
空咳をした後は咳すら出てこないところを見ると、もしかしたらもう呪いは解けているのではないかと。
だが、そう思ってまた咳が起きたらと思うととても怖くて、ぬか喜びをするくらいなら気のせいだと済ませた方が余程心は軽かった。
「…………もし、ぬか喜びだったら?もしまた……咳が出て、吐血をして……物が……人が、居なくなったら?それでもしアイルが……居なくなったら?あたしはきっと……もう二度と……立ち直ることができない……」
見つめる先にはアイルの顔がある。
アイルの目を見つめながら、目からは涙がこぼれ落ちベッドのシーツを濡らしていった。




