第15話‐④
一粒の涙をきっかけにぽろぽろと流れ出る涙をアイルは無言のまま指で拭う。
「……本当はアイルに好きだと言われてとても嬉しくて……でもあたしはこの呪いがある限り一人でいなければならない。あたしがそう自分に制約したから。でも……こんな風になるなら……こんな感情になるくらいなら……最初からそんな制約をしないで生きてみれば良かった……」
「…………」
あの時あたしは逃げた。
自分の気持ちから、自分の心から。
そうでもしないと耐えられそうになかったから。
でももし、あの時頑張って頑張って耐えていたら、今とは違った状況になっていた?
アイルに好きだと言われ、あたしも好きですと答えて、とても幸せな時間を過ごせたかな?
きっとこうなったのは自分の弱さが原因だ。耐えきれなかったあたしの心の弱さが今の自分を追い詰めている。
これはきっと逃げようとした過去の自分からの罰だ。
辛そうな表情を浮かべるアイルは今もとめどなく流れている葵の涙を拭っている。
何を考えているのか、何を思っているのか葵には分からない。
ただ、アイル自身も辛いのだとそれだけはわかった。
「……葵さん。もし万が一、呪いが解けていなかったとします。でもそれはただの出発地点に立てていなかっただけ。呪いを解きたいという気持ちがあるのなら一緒に呪いを解く方法を探しましょう。わたしが葵さんと一緒に探します。見つかるまでずっと...」
「…………アイル……」
力強い濃紺の瞳が葵を捉えている。
アイルはいつもこういう時、欲しい言葉をくれる。
普段のアイルは葵のテリトリーに土足で入り込んでくるけれど、言って欲しい時に言ってくれる言葉というのがなにより心に染みるのだ。
「……アイル……あたしは……」
『……そんなに泣かずとも、お主の呪いはもう解けているぞ』
「「っ!?」」
アイルに何かを言いかけた時、足元から聞いたことのある声が聞こえてきた。
それにびっくりして涙が止まり、何秒かお互い見つめあった後、葵とアイルはそちらに目を向けた。
『ん?どうかしたか?』
「「…………」」
そこには、虎柄模様の白銀色の毛並みを持つ、大きな虎……いや、白虎がベッドの上にお座りをしていた。
葵は身体を起こし、アイルはその白虎を眉間に皺を寄せながら訝しげに睨みつけた。
「……今いいところだったのに」とボヤいた気がしたが気の所為にすることにする。
葵は足元のベッドの上にいる大きいもふもふに声をかけた。
「あの……白虎様?あの色々と聞きたいことがありすぎるのですが……今さっき言った『呪いはもう解けている』とはどういうことですか?」
「え……白虎?」
『そのままの意味だ。お主の呪いはもう既に解けている案ずるな』
「解けてるって……え、どうやって?」
葵ともふもふは話が通じているのだが、アイルだけ置いてけぼりだ。
白虎という言葉を聞いて放心状態になっている。
それを無視して二人は話を続ける。
『どうもこうもない。お主の心に隙間が生まれた瞬間にひょいっと取り除いただけだ』
「っ……取り除くって……あの時言っていた?」
『左様。現に目が覚めてから発作はしていないであろう?』
「えぇ……先程呪いのストッパーを言われたのですが空咳が出たあとは何も起きなくて……」
『空咳?あぁ身体にその症状が馴染みすぎた影響だな。暫くは反射的に咳が出るだろうがそれだけだ。呪いはもう解いている故、時期に咳も収まるだろう』
「……白虎様は確か邪気を払ったり、魔除けの意味を持っている存在だからその力であたしの呪いを?」
『まぁそんな所だ。お主が隙を作ってくれたお陰で取り除けたのだ』
「……あの、ありがとうございました」
葵はそう言い頭を下げた。
ぬか喜びで終わるかと思ったが、本当に呪いは解けていたようだ。
取り除くという言葉の意味について、戻ったら半分は分かると言っていたのはこれかだったのか。
もう半分は分からないが、葵がこの世界に戻る時にもふもふが呪いを解いてくれた。
だから、戻ると分かると言ったのは、呪いを取り除いたからもう発作は起きないと言いたかったのかもしれない。
まぁ、全て後講釈なのでなんとも言えないが大体はあっているだろう。
ただ、戻ると分かると言っていた割には、もふもふが説明するまで完璧には信じられなかった。いや、信じられないのは当たり前だ。先程も言ったがぬか喜びなんてしたくないのだから⋯まぁ終わりよければすべてよしとしよう。
「あの白虎様、何かお礼をしたいのですが……」
『ん?例など要らん。そもそも私がお主に恩があるからしたまでのこと、あまり気にするな』
「……それあの時も言っていましたが、借りってなんですか?そもそもあたしあの時に初めて白虎様に会ったと思うのですが……」
初めて白虎に会ったのはあの真っ白い空間だ。
借りがあるというのなら、それ以前にあっていなければ筋が通らないとおもうのだが葵にはその時の記憶は無い。
白虎はしっぽをたっしたっしとベッドに軽く叩きつけながら話だした。




