第14話‐③
こういう風に怒らせたかった訳でもないし、勿論飛び降り願望なんてない。
怒るのも当然だなと思いながらも、アイルにここまで怒られた事になぜだかとてもショックだったし、とても辛かった。
「……ご、めん…なさい」
泣きたいと思った時には謝っていた。
この時ばかりは二人の間に流れる沈黙が辛かったのか、この言葉しか出てこなかったのだ。いや、この言葉しか言えない。
不可抗力にせよ、こんなに怒らせてしまったのは自分のせいであり、自分から謝らなければアイルは一生許してくれないと思ったのだ。
(……え、待って。あたし……アイルに許して貰いたいと思ってるの?)
今までの葵はどんなに勘違いされてもいいと言うような態度ばかり取ってきた。何を思われても例え嫌われたとしても全然構わないと。
それに、自分の言動がどれだけ悪くても謝らなかったし、謝ろうとも思わなかった。
なのに、今葵はアイルに謝っただけでなく、許してほしいとすら思っている。
そんな心境の変化に戸惑いを隠せないでいると、お腹辺りに伸びるアイルの腕が強くなったのを感じた。
「……すみません、そんな風に謝って欲しかったのではなくて……ただ、わたしはもう少し自分の身体を大切にして欲しくて……」
いつか聞いたか細くて消え入りそうな声。
その声がとても自分を"心配してくれているのだと"伝わってくる。
その声に胸が締め付けながら葵は目を泳がせながら口を開いた。
「いえ……あの……今だけではなくてその……色々と本当に……すみませんでした」
今の行動に対する謝罪だけではない。
あの時、アンデッドに一人で向かって行って、勝手に怪我をして助けられた時の事にも謝っているのだ。
勝手に行っておきながら、助けられるなど恥ずかしいにも程がある。なので今、後ろを向いていて良かったと心の底から思った。
「…………葵さんが謝罪するなんて何かありました?」
「っ……あたしだって謝る時は…謝ると、思い…ます……きっと……」
「きっと?」
「はい……多分……」
「多分って……あははは!なんですかそれ」
アイルは葵の言う事がおかしかったのか声を上げて軽く笑った。
先程の雰囲気からは一変して笑ってくれた事に安堵しながらも自分のこの変わりように何故だか戸惑ってしまう。
確かに葵は自分が悪いと思った事は謝るが、アイルに対しては自分のプライドが邪魔をするのか素直に言えない事の方が多かった。
感謝することはあれど、謝罪など昔の葵ならたとえ自分が悪いと思っていたとしても言わなかっただろう。
それなのに今、こんなにもすらすらと口から出てしまう謝罪に対して、葵はなんの躊躇いもなく、変なプライドもなく言えてしまう。
あの時はこころがとても重くて、自分の事しか考えられなかったのに、今はとても"心が軽い"。
あの頃と比べてもとにかく気持ちが清々しく、まるで"昔の頃の様"な幸せに包まれていた感覚に似ていた。
と、ここで止めた。
これ以上その先を思い出してしまえば、また発作が起きてしまうかもしれない。
また二回の猶予は出来たが、アイルの前で発作が起こることだけは避けたい。
葵はお腹辺りに回されているアイルの腕の袖をぎゅっと握りしめた。
「葵さん」
「…………はい」
「とりあえず部屋の中に入りましょうか。話すにしても流石に夜中ですし風邪を引いてしまうかもしれません」
「あ……はい、そうですね」
確かにそうだなと納得した葵は、先程のけんけんを再開しようと手すりに手を伸ばした、その時ー
「失礼します」
「え?…………ちょっ……と何を!?」
手すりに伸ばそうとした瞬間、身体が急に宙に浮いた。
スカッと手すりを掴み損ねた手は自分の身体が落ちないようにと傍にある腕にしがみつく。
びっくりしたなとふと顔を上げると、そこには距離が近くなったアイルの目がこちらを見つめていた。
「……は!?ちょっ…何してるんですか!?」
「……?何してるって言われても…葵さんを運ぼうとしているだけですけど?」
「いっいやいや!あの自分で歩けます!」
「…………この怪我で、自分で歩くと?」
「っ…………」
先程よりも近くにあるアイルの顔を直視出来ず俯いてしまう。
まさかアイルがお姫様抱っこをして運んでくれるとは露ほども思わず、恥ずかしさのあまりまたアイルを怒らせるような事を言ってしまった葵はすぐに黙る。
そんな大人しくなった葵をアイルは無表情のまま、部屋の中に入って行った。
そして、ゆっくりと優しくベッドの上に葵を下ろすと、軽く掛け布団をかけた。
そのアイルの行動に有無を言わさない雰囲気に葵はされるがまま。身体を起こしたまま葵はアイルの様子を伺った。
アイルは葵を抱えて閉めることが出来なかったバルコニーへと続く扉を締めに行き、戻って来たと思ったら葵のいるベッドの右側にある椅子に腰を下ろした。




