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第14話‐②



ーサァァァァアアアアアア


開けた瞬間涼しい風が頬を撫で、肩より下まで伸びる漆黒の髪をなびかせた。


「……あの時と変わらない」


ここを出ていく決心をした夜、この景色を見てもっと近くで見たいと思い、今見えている噴水の近くまで行った。

そこで、アイルとナディルと会うとは思ってもいなかったけれど、それはそれで濃い夜を過ごしたなぁと今ならそう思えた。


そして、その時と違う事が一つ。

とても寒い。

一日、二日しか経っていないはずなのに、その頃より一段と寒くなっており、突き刺す寒さが葵の肌を冷やしていく。


その寒さに一瞬出るか迷ったが、既に一枚羽織っているし、今更戻るのも面倒くさい。

意外とこのけんけんは左足に響くので戻るという選択肢は元から無い。

ただ、羽織は肩に軽く掛けていて腕には通していないのでけんけんをする度に落っこちそうになる。

その為、落っこちそうになる度に再度肩に深めに羽織をかけてけんけんを再開していた。


後は外に出るだけで、バルコニーはさほど広くは無いのであと五回くらいけんけんをすれば手すりに辿り着くだろうと逆計算を頭の中でして、再度羽織を肩に深めにかけ直した。


そして、そろそろ左足を宙に浮かすのも限界が近いので気を引き締めてけんけんを再開した。


そして、予想通り五歩目で手すりに到着した、その時ー


「あっ……待って!」


連続でけんけんをしたため、肩に掛かっていた羽織がずり落ち、運悪くそのずり落ちた羽織が、またもや運悪くナイスタイミングかのように強い風が吹き、手すりを超えた先の上空に飛んで行ってしまった。


葵は咄嗟に声を上げて、最後のチカラを振り絞って思いっきり右脚だけでジャンプした。


「っ……届いたっ……………?………あっ……」


が、羽織を掴むことしか考えておらず、そこがバルコニーで尚且つ一階よりも上の階なのを失念していた。

どうにかして届いた羽織に葵の手ががっちりと掴まれているのだが、身体の上半身は既に手すりの外にあった。

そして、意外と脚力、ジャンプ力が凄いことも災いしてか、純粋にやばい落ちると焦った。

だが、瞬時に魔法の存在に気が付いた葵は風の魔法を発動した。いや、しようとした。


「…っ何、やってるんですかっ!!」

「っ……」


発動しようとしたのだが、後ろから伸びてきた手によってそれを阻止された。

お腹辺りに腕を回され、腕を掴まれたかと思ったら思いっきりグイッと後ろに引っ張られた。


「っ……いたたた」


そして、後ろに倒れ込むような形で事なきを得、落下は阻止された。

しっかりと掴んでいた羽織は葵の手を離れ、ひらひらとバルコニーの隅に落ちて止まった。


軽くお尻がひりひりと痛むが、それ以外には痛いところはなかった。

骨折している足は前に伸ばした状態で床につけているので問題ないし、もう片方の足は曲げていて、お尻は勿論床に付いている。


いや、そんな事よりも今は後ろにいる気配と、お腹辺りにがっしりと回されている腕が気になった。

まるであの時のようではないかと自然と温度が高くなっていく。


「……はぁ……わたしは何回死ぬ思いをしなければならないのですか……葵さん」

「っ……」


ビクッと肩が揺れる。

葵の耳には彼のアイルの吐息がかかりみるみるうちに耳が赤くなっていく。


思った通り、あと時と同じ状況になっていた。


「…御手洗で少しの間席を外して戻ってきてみれば…ベッドに寝ているはずの葵さんの姿が見当たらなくて……それだけでも心臓が止まるかと思ったのに、ふとバルコニーへとつづく扉が開いていると思って近付いてみたら葵さんが飛び降りをしている瞬間を目の当たりにするとは……」

「っ……ちょ、ちょっと待って下さい!何か勘違いしていませんか!?あたしは飛び降りをしようとしていたのではなく、風に飛ばされた羽織を取ろうとして落ちそうになっただけで……」

「その足でよく取ろうとしましたね?と言うかそもそもその足でバルコニーに出る事自体おかしいのではありませんか?貴方は怪我をしているのですよ?それでよく羽織を取ろうとしたと言えますね?元々外に出なければそのような事態にならなかったのではありませんか?ねぇ?葵さん?」

「………………」


怒っている。

物凄く怒っている。

顔を見なくともこの雰囲気と言葉だけでも十分すぎるほど伝わってくる。


それに、アイルの言っている事がごもっともすぎて何も言えない。元々外に出なければ風に羽織が飛ばされることは無かったのはその通りなのだ。

足を怪我しているのに歩くこと自体おかしな事なのだ。

そう思うと、何だか申し訳なくなって自然と顔が俯いていった。



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