第13話‐④
(……そう言えば、その丑の刻参りは誰にも見られないようにしなければ行けないということで、よく神社の敷地内の木に藁人形が釘で打ち付けてあって困っている神社が沢山あると聞いたことがある……それに…………)
葵はふっさふっさと揺れているもふもふのしっぽを見つめながらポつりと呟いた。
「……確か、実家の神社の敷地内の木にもあったって……昔おじいちゃんが言っていたっけ……」
『…………』
うる覚えであんまり覚えていないがその話を聞いて夜中トイレに行けなかったような気がする。
祖父なりのからかいかとその時は思っていたが、今思えば意地悪をした訳でも、からかっていた訳でもないのだと気が付いた。
(……ん?てことは、その丑の刻参りの話を聞かせてくれたのはおじいちゃんって事か……)
今になって改めて知る真実に感動しながら、いつの間にか止まっていた涙の跡を拭った。
『良い顔つきになったではないか』
「え……?」
『その様子だともう大丈夫そうだな……色々と』
「…………色々?」
『後は私が取り除くだけのようだ』
「?……えっと、あの何を言っているのか……よく分かりません」
もふもふはすらすらと勝手に話を進めるものだから訳が分からない。
それだと言うのに、もふもふはふんすっと言う感じで納得している表情をしている。
とても可愛いのだけれどやっぱり訳が分からないし、一人で納得しないで頂きたい。
「えっと……あの……取り除くとは?それに貴方はあの……どなた様なのでしょうか……」
色々と聞きたいことは山ほどあるが、今一番気になる事を聞いてみた。
取り除くとはなんなのか、そしてずっと気になっていた目の前に居るもふもふは、神様なのか聖獣なのか明らかにしたい。
そしたら少しは安心出来るし、気持ち的にも落ち着くだろう。
『ふむ……まぁ今言わなくても後でいくらでも話せるからいいのだが……まぁいいだろう、質問に答えてやろう』
「あ、はい」
と、いうわりにはふわぁと大きな口で大あくびをかいているもふもふがいるのだが、本当に話す気あるのだろうか。
少し心配ではあるが、とても大きな口だなと思いながらもふもふが話すのを待ってみる。
するともふもふは、今までのお座りの体制から自分の両前足に顎を乗せて伏せの状態になった。それはまるでこれから寝ますよという合図のように。
そして目をつぶったかと思うとぽつりと話し出した。
きっととてものんびり屋なもふもふなのだろう。
『……私はこの国を守護する聖獣の一柱と言われている白虎だ。他にもあと三柱いるのだがまぁそこは省略するとして、邪気を払ったり、魔除けの意味を持っている。そして、"お主のいた世界では魔除けや様々な災いから護る一柱"として祀られている』
「…………ん?……え…っと……え、待って下さい……ちょっと待って、まずこの世界では白虎様として、あたしのいた世界では魔除けの神様としてって……え?なんですかそれ?その言い方まるでそれぞれの世界を行き来しているかの言い方……」
『ん?そうだが、何かおかしいのか?』
「……………………いえ、おかしくありません……続きをどうぞ」
本当に、人間と神様とのスケール?というか考え方が違いすぎてもうとりあえずなんでも受け入れとこう。その方が心臓に良い気がする。
葵は苦笑いを浮かべてもふもふ改め……いや、改めなくていいか、もふもふの言葉を待つ。
『……ん?続き?』
だが、のんびり屋さんのもふもふは自分の事について話をしたら満足したのか次は本気で眠りに入る気になっている風に見えるのだが、気の所為かな?
それに先程からとても手がうずうずしてしまい、わきわきと手が空気を掠めている。
(ああだめだ……この不思議な状況なのにもふもふの前だとどうしても頬が緩んだしまう……)
あの頃は心が死んでいたので極力自分から近付かないようにしていたけれど、昔からのもふもふ好きな葵は何十回それに癒されたかったか……。
でも、一度でもそのもふもふの癒しに気付いてしまったら自分にかけた呪いがもふもふに向かってしまう。
そう思っては決心がゆらぎそうになってとても辛かったのを覚えている。
だがしかし、そんな葵の目前に今にも眠りそうなもふもふがいるではないか。
あれだけ我慢して我慢して遠ざけてきた存在が今目の前にいるという事実にどうしても抱きつきたい衝動に駆られてしまう。
そして、もふもふを前にすると葵の口調が少し砕けていると言うのは本人は知らない。
『……あぁ確か、取り除くとはどういう事か聞いていたな』
葵が脳内でもふもふと戦っていると、パチリと目をうっすら開けたもふもふが思い出したというようにこちらを見てきた。
「……え……あ、はい……えっと、『後は私が取り除くだけのようだ』と言っていましたが……どういう事でしょうか」
急に見つめられてあたふたしながらも、頭をフル回転させて先程自分が言った言葉を再度聞いてみた。
もふもふはもう一度大きな口で欠伸をした後、両前足に顎を乗せたままゆっくりと口を開いた。
『……通常はお主が自身にかけた呪いは、お主自身でどうにかしなければならないのだが…………』
「…………」
と、そこで言葉を止めて、何かを考えるようにまた目をつぶった。
『…………』
「…………」
え、ただ目をつぶっただけだよね?
まさかこのまま寝たりしないよね?
葵はその様子を見て心配になり、少しだけもふもふに近付いた。
ただ、近付いたと言っても、それでも二人の距離は三メートルほど離れている。
万が一にも、葵の感情がもふもふを捉えてしまってはいけないと思い、どうにか気持ちを落ち着かせる。
そして、何かを決めたのかゆっくりと目を開けた。




