第13話‐②
この国に来る前は実家の神社の巫女として暮らしていた。
葵は生粋のおじいちゃんっ子で当時宮司だった祖父の影響で、葵の将来の夢は実家の神社を継ぐことだった。
だが、葵の両親は葵の事をただの道具としか見ていなかった。
小さい頃から神社の勉強や習い事、塾など毎日のように分刻みで一日のスケジュールを組まれ、他の子供のように遊ぶことなど許されなかった。
そんな親からの執拗な圧力による精神的ストレスが葵の心を削っていったが、圧力しかかけない両親と違って小さい頃から祖父はそれはもう可愛がってくれた。
勉強やら習い事やら毎日のように行動を制限され自由のなかったあたしに、両親の目を盗んでは一緒にお出かけをしたり、お菓子を買ってくれたり、時には流行りの少女漫画も読ませてくれたりした。
時にそれがバレた時は必ず祖父は庇ってくれて、逆に子供に対する態度を改めたらどうだと両親に怒ってくれることもあった。
ただ、その怒り虚しく両親が変わることなどなく、葵は祖父の存在がより大きくなっていった。
両親の言いなりにはなりたくないけれど、祖父が大事に守ってきた神社を自分の代で途切れさせるのは嫌だし、何より純粋に神社が好きなのもあり、将来は祖父の神社を継ぐのだと決めていた。
……だったのだが。
嫌な事は連続で起こるものとはよく言ったもので災害がこの街を襲った。
大切だった祖父は命を落とし、神社も災害によって奪われ、葵の心はズタボロになった。
自然災害とはいえ祖父と神社を守れなかった自分自身に怒りを覚えたのを覚えている。
ちなみに両親もその災害で命を落としたが、葵からしたら赤の他人同然であり、両親と思ったことが一度もなかった葵からしたら両親が亡くなったことになんの感情も湧かなかった。
そんなことより、一番大事にしてくれた祖父と、自身の夢でもあった神社を継ぐという夢が無惨にも絶たれてしまった事にとても心がえぐられていた。
これからもずっと祖父の隣で生きていくのだと思っていた葵の心は色々な感情でぐちゃぐちゃになった。
祖父を亡くした寂しさや独りだと現実を突き付けられた孤独感、自分の夢でもあった実家を継ぐという夢が絶たれた無念の思い。
そして、それと同時に祖父と神社を守れなかったという後悔。
それらの感情をどこかにぶつけたくて、一人で叫んだ日もあれば一日中泣き続けた日もあった。
だが、そんな事では一度折れた心はすぐには復活しなかった。
自暴自棄になり何もする気になれず、一日中家の中に引きこもり、ただ起きて寝ての繰り返し。
どうやったら、この想いを思い切りぶつけることができるのかと考えあぐねていた時、唯一その感情をぶつけることができる存在がいることを悟った。
自分をその標的にすればいいんだ。
大切な神社と祖父を守る事が出来なかった己自身ももはやその対象であると己に言い聞かせ、己をその標的にしたのだ。
だが、どうぶつければいいのか分からなかった葵は、自分に制約をかけることにした。
今葵の心を押し潰している悲しみ、孤独、寂しさ、後悔。
その一番辛かった時の感情を葵はもう二度と思い出さないようにと心の奥に蓋をして、万が一思い出すような事があればそれに制限をかけた。
最初は、蓋をしたはずの感情が出てきそうになると、その時に葵自身が一番大事なモノを自身で問答無用で手放すというものだった。
葵自身的にはもうあの時の感情は出てこないと思っていたのだがそう簡単にはいかず、特に孤独と悲しみが独りの葵にまとわりついた。
そして、その感情を思い出す度に、身近にあるものをと手当り次第手放していき、遂には祖父の形見さえ手放すという、その行動に対する重圧がより葵自身を苦しめて言った。
そして、ある日のこと。
少しずつではあるが、段々と正気を取り戻した葵に、また蓋をした感情が出てきてしまった。
これで何回目だろうと考えていた時、買ったばかりのぬいぐるみが忽然と姿を消した。
最初はどこかに移動させたっけと首を傾げる程度だったが、その感情が表に出る度、その時に葵が大切にしているモノが無くなっていくという現象が起き始めたのだ。
いつもは自身で手放していたはずなのに、いつの間にか自身から勝手に消えるという不思議な現象になっていた。
そして、それを何度か繰り返していると、その条件も段々と変わっていることに気が付いた。
それは、祖父と一緒にいた時に感じていた、大切だと思う気持ち、愛情、守りたい気持ちなど、幸せな時間を過ごしていた時に感じた感情。
それらをの感情を抱くと、その時にその感情を向けていたモノが無くなると言うことに気が付いたのだ。
最初は悲しみ、孤独、悲しさ、後悔という感情を思い出した場合、一番大事なモノを自身で手放すという制限だった。
だが、いつの間にか、大切、愛情、守るという、祖父との時間の中で感じていた感情が出てくると、その時にその感情を向けていたモノが忽然と無くなるというものに変わっていた。
そんな事があるのかと、意図してその感情を出すこともあった。
だが、いつも結果は一緒で、どんどん周りから大切なモノがなくなっていった。
極めつけは、その感情を思い出す度、喉の奥から何かが溢れ出し、口から吐血をするという謎の現象にまで発展した。
ただ、猶予ができたようで、発作の二回までは何も消えず、発作を三回起こした暁に大切なモノが消えるというものに変わっていた。
そして、その感情は勿論自身が思い出すのもダメだし、相手からその感情を向けられたり、逆に自分から相手に向けたりした場合も有効のようで、いつの間にか範囲までもが広がっていた。
最初は戸惑ったが、もう葵に怖いものなどなかった。
モノが消える前までに二回も猶予があるのはきっと自身に対する忠告なのかもしれない。
どうして、もう思い出したくのない感情をまた思いだした?
その感情を持つと、また自分の前から大切な人がいなくなるよ。
また、辛い思いするよ。
忘れるな。自分がどれだけ苦しんだのかを。
……という、そんな自分自身に対する忠告のようなもので、自分自身に語りかけるメッセージなのかもしれない。
そして、三回目でモノが消えるのは三回もその感情を味わったということで、三回発作を起こした代償であり自分に対する戒めなのだと思った。
そして恐らく、その代償であるモノが消えると言うのは、物も人も変わらないのかもしれない。
祖父の死後以降、人との関わりを絶ってきたので流石に人が消えるという出来事は起きていないが、きっとそうなのだろうと思っている。
その一連の出来事を葵は呪いと呼び、発作が起こる度吐血をし、大切なモノが消えていくという現象と共に生きて行くことになった。




