第13話‐①
真っ白な空間の中に葵は佇んでいた。
「あれ?」と思い辺りを見回してみる。
だが、三百六十度白、白、白。
白色以外の色が存在せず、ただ本当に白色の空間の中にいた。
思い返せば、今さっきまで葵はあの薄暗い洞窟の中にいたのではないだろうか。
最後の記憶は恥ずかしながら、アイルに膝枕をしてもらって眠気に負けて眠ったのが最後の記憶。
そして、目が覚めたらきっとその洞窟の中かなぁと思っていたのだがどうやら違ったようだ。
「あ、もしかしてあたし死んだのか?」
『何を馬鹿なことを言っている!お主が死ぬはずないだろう!』
「……え?」
呑気に自分の死について言葉にした瞬間、後ろから聞いたことのある声が聞こえてきた。
振り返るとそこには、あの森の中で出会った、虎のような猫のようなはたまた犬のような動物がお行儀よくお座りをしていた。
もふもふの艶やかな毛並みに、ゆらゆらと揺れる尻尾が葵の視線を誘う。
そんな目を引くもふもふ、先程辺りを見回した時はいなかったよな?と疑問に思った。
「貴方は……先程森で出会った方ですよね?あの、ここはどこなんでしょう?あ、もしかして天国とか?」
『だーかーら!お主は死んでないと何度も言うておるだろうが!』
「違うんですね……」
これで言われたの二回目ですよ?と突っ込みたいところだが、なんか面倒くさくなりそうなので我慢する。
では、天国ではないのならこの空間は一体なんなんだろうか。
それが顔にも出ていたのか、お行儀よくお座りしているもふもふが口を開いた。
『ここは……まぁ簡単に言うと、天上世界と現世の狭間の世界だ。その世界の空間にお主は今、魂だけがいる状態だ』
「………………それってやっぱり死んでいるのでは?」
『違う!何度も言わせるな!人と言うのは死んだらその魂は幽世に行く。ここはそんな魂が辿り着けるところではない!』
「では、あたしは今どういう状況でここに居るんですか?」
もふもふの言わんとしている事が何も分からず首を傾げる。
悪いもふもふではないのは分かるんだけれど、何をしたくてここに居るのかが読めない限り、少し警戒してしまう。
もふもふは一瞬黙り込んだ様子だったが、考えるようにしてまた話し始めた。
『…………心当たりがないと?』
「え?はい……逆に心当たりがあると言えたら、こんなに動揺していませんよ?」
『その態度が動揺しているようには見えないのだが』
「……?あぁ……気にしないで下さい。あたしは元々感情が表に出る人間ではないので」
『……?それは違うだろう』
「え?」
『思っている事が行動に出ないのであって、感情は手に取るように顔に出ているぞ?』
「……へ?何を言って……」
『私は、"態度が動揺しているようには見えない"と言っただけで、決して表情がとは一言も言っておらぬぞ?』
「っ……」
そのもふもふの言葉にはたと気づいた。
確かに、先程のもふもふの言葉を思い返してみると、「態度が」と言っている。
え?では表情にはその動揺しているのが出ているとでも言うのだろうか。
葵は今まで感情が表に出るタイプではないと自身で自負していたのだが。
『ああ。顔には思い切り感情が現れている。先程の、態度が動揺しているように見えないと言ったのは、あまりにも態度と表情が違ったものだから聞いただけだ』
そして今も感情が表に出ていたのだろうか。
思っている事を百発百中当てられてしまいなんとも言えない感情が心の中を支配する。
「…………あたし、今まで感情が表に出るタイプではないと思っていたのですが……」
『……色々と自分で感情を押し止め呪いをかけた様だな。返って残り少ない感情が出やすくなっているのだ』
「えっ……な、何故それをっ……」
呪いと言う言葉に反応した葵は目を見開いていく。
アイルの時はさておき、まだ二回しか出会っていないというのにどうしてその事を知っているのか。
ただただ不思議でたまらない。
『先程の質問に答えよう。どういう状況でここに居るのかと言ったな?そもそもここは、普通の人間が来る事は出来ない場所なのだ。たまに何かのイタズラでここに迷い込んでしまう人間もいなくはないが基本は、神や精霊、聖獣や妖精など人とは違う存在しか入れない場所だ』
「神様や……精霊?」
なんだか話の内容が大きすぎて頭に入ってこない。
『そして、そんな場所に何故お主が入ることができたのか。それはお主が自身に呪いをかけた行動により、人と少しズレた存在になったからだ』
「…………人と少しズレた存在?」
『そうだ。お主は元々この国の人間ではなかろう?』
「っ……」
『元々いたお主の世界でのお主の存在は、その呪いを自身にかけた時点から既に浮いていた……心当たりはないか?』
「………………ありすぎてどれがどれだか……」
このもふもふがどのような存在なのかは先程の説明であらかた理解した。
もふもふの言う通りなら、このもふもふは神様や精霊、聖獣や妖精と言った部類に入るのだろう。
それなら、まだ会ったばかりのあたしの事情を知っていたとしても不思議ではない。
そして、その心当たりももふもふは気付いているようだ。
『言うてみ』
「……」
何故だろう。
なぜだか分からないがこのもふもふになら話してみてもいいと思っている。
今まで誰にも打ち明けたことの無い話。
いや、聞い欲しいと思っているのだ。
もふもふは葵の返答をしっぽをたっしたっししながら静かに待っている。
一瞬そのもふもふに埋もれたいと思ったが、今はそんな雰囲気ではないと心を入れ替えて口を開いた。
「……何もかも嫌になっていたあたしは、その怒りや悲しみを自分に向けることによって解決しようとしました……もうあんな思いをしたくない。だからあたしはその色々な感情を押し止め、押し込み、もしまたその感情を思い出した暁には、戒めとして自分の大切にしているものを手放すという制約をしたのです。
ただ……最初は自身で手放していたのですが、段々と勝手に消えて無くなるという……よく分からない現象に変わっていきました……」
そう。
ただ最初は自分で大切なモノを手放しては、それの繰り返しだった。
だが、いつの間にか色々と条件などが変わっていき、いつしか吐血という発作が起きてしまうという現象まで起きてしまったのだ。
葵は深呼吸をしてゆっくりと語り出した。




