第12話‐⑥ アイル視点
「怪我は……大丈夫ですか?」
「……えぇ、今の光で傷口も塞がったと思いますが……どうですか?」
確かめるように言ってきた葵に、アイルはゆっくりと起き上がり、怪我をしていた背中を葵に見せた。
痛みがなくなり、身体が軽くなったので傷も癒えているとは思うが、背中だと自分では見えないので一応見てもらう。
「……治って、いる?」
「そうですよね?痛みも何も感じなくなってそうなのではないかと思っていたのですけど、どうやら葵さんが治してくれたようですね、ありがとうございます」
「……いえ」
向かい合わせに座り直したアイルが素直にお礼を言うと、恥ずかしそうに目線を泳がせた。
やはり、アンデッドを殲滅できる魔法には治癒の効果もあるようだ。
ただ、それは葵自身以外にである。
それを知ってはいるのだが、もしかしたらという気持ちが捨てきれない。アイルは葵の足をチラッと見てから聞いてみた。
「葵さんの足はどうですか?」
少しの希望を込めて聞いてみたのだが、葵はいつもの事のように言ってきた。
「勿論治っていません。先程も言いましたけど、あたしは自分で自分自身の怪我を治すことはできませんので」
「…………そうですね」
その言葉にアイルは表情を曇らせた。
分かってはいたが、自分の怪我が治ったところを見たら少しの望みでもかけてみたかった。
だがやはり、師匠の言った通り葵は自身の怪我を治すことが出来ないのだ。
どうして人の怪我は治せるのに治せないのか。いつものアイルなら目をキラキラさせて問い詰めるのだが、葵のことになるとどうも調子が悪くなる。
「……い、いつもの事なので気にしてないです……それより、どうやってここを出ましょうか」
すると、葵が話を変えた。
少し戸惑っているのか、目を泳がせている葵にアイルは軽く微笑んだ後、その場を立ち上がった。
「そうですねぇ……とりあえず、魔法でどうにかしたいですけど……流石のわたしも魔力がそれほど残っていません。ここは団長殿らが来るのを待つしか無さそうですねぇ…………って危ない!」
「え……?」
立ち上がりながら葵の方を向いていたら、急に葵の身体が傾いた。
それに反応したアイルは咄嗟に葵に手を伸ばした。
葵は伸ばされたアイルの手に自分の手を伸ばしてくれたお陰で、間一髪の所で葵の腕を掴み力強く引き寄せる事ができた。
「葵さん!大丈夫ですか!?」
「…………あれ?あたし……」
力の抜けた葵を今度は逆にアイルが寝かせる立場になり、膝の上に葵の頭を優しく乗せた。
バックンバックンしている心臓の音を聞きながら葵を見つめる。
葵は眠いのか目の焦点があまり合っていない。
急に身体が傾いた葵を見て、すかさず受け止めはしたものの、急の出来事でアイルも戸惑っていた。
そして、一番心配しているのが怪我で倒れた場合だ。足以外に怪我をしているのかと少し声を荒らげながら聞いた。
「どこか痛みますか!?足以外にどこか怪我を!?」
「…………」
その言葉に焦点の合っていなかった焦点が合っていく。そして、アイルと目が合った葵はアイルの目を見つめたまま何も言わない。
口が効けないほどどこか怪我をしているのかと急に焦りだしたアイルは血相を変えて怪我した所を探そうとしたその時ー
「葵さん!しっかりして下さい!」
「…………カッコイイ……」
「………………」
ポツリとそんな言葉が聞こえてきた。
アイルはその言葉に動きを止めた。
何を言われたのか一瞬分からなかったがよく考えてみると、そのような言葉を前にも言われた気がすると思い出した。
そのよく分からない事実にアイルは目を見開きながら葵に目を向けた。
「っ……す、すみません!今のは忘れて下さい……!」
「…………そういえば、あの時も同じような事を言っていましたね」
「っ……そ、それも!わ、忘れて下さい!」
「どうしてですか?その言葉から察するにわたしは葵さんの好みの中に入っているのでは?」
「っ……忘れてください!」
とても慌てた様子で急に勢いよく起き上がった葵に、アイルは一瞬びっくりする。
そしてアイルの目線から逃れるように葵は後ろを向いた。
……のだがー
身体に力が入らないのかふらっとよろけて後ろに倒れそうになる。
「っ……」
そんな葵をアイルは勿論受け止めた。
葵を後ろから抱き抱える形になり、葵の両足あたりに自分の足を立てて、冷たい地面にお互いおしりをつける形で座っていた。
葵の綺麗な黒髪が後ろに座っているとよく見える。
アイルは葵をぎゅっと力強く抱きしめながら安堵の息を漏らした。
「……はぁ危なかった…………急に動くのはあまりオススメしませんよ」
「っ……」
アイルの吐息が葵の髪を優しく揺らす。
動揺しているのか腕の中でもぞもぞ動く葵。
「あっあの!もう急に立ったりしないので…離して……ください……」
「嫌ですね。思い返して見ればあの時もアンデッドを殲滅した後、葵さん倒れましたよね?身体に力が入らないのも恐らく魔力の枯渇だと思います。なので大人しく休んで下さい。こちらに体重をかけていいので大人しく寝てください、分かりましたね?」
「……はい」
有無を言わせないその迫力に葵はすぐに大人しくなった。
これ以上は葵に勝手されてはアイルの心臓が持たない。いい加減、そろそろ大人しくして欲しいとアイルは思う。
すると、アイルの思いが通じたのか葵は言われた通りに大人しくなり、アイルに体重を預けてきた。
いや、思いが通じたというより、流石の葵も体力の限界が来たのだと思うが良いように思うことにした。
時折、葵の耳にアイルの吐息が当たるのかほんのり赤くなっている耳がとてつもなく可愛らしい。
体重を預けた葵はまだ緊張でもしているのか身体が強ばっている気がする。
流石にすぐには寝付けないだろうとアイルは安心させるかのように葵のお腹に回している腕に力を入れた。
すると数秒後、微妙にだが葵の身体から力が抜けていくのがわかった。
アイルは静かに葵の顔を確認しようと覗き込む。
すると葵はもう既に目をつぶって眠っていた。
そんな葵のこめかみの部分に軽くキスを落とすと、元の位置に戻りボソリと呟いた。
「…………誰にも渡さない」
そんな決意が静かな空間に響いた。




