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第12話‐⑤ アイル視点



「葵さん!避けて!」

「えっ……!?」


瞬時に葵にそう言いながら後ろを向くと、戸惑った顔をした葵が目に入った。

何故急に名前を呼ばれたのか、状況をあまり理解していない様子の葵はその場から動けないでいる。


そして、アイル自身も魔法の発動が間に合わないと判断し、葵に覆い被さるように葵を抱きしめた。


ーザシュッ!!


「っ……う"」

「っ……!!!」


その瞬間、背中にとてつもない痛みがアイルを襲った。

それもそのはず、アイルの背中には熊アンデッドの鋭利な爪が食い込み、血が溢れて流れ出していた。

その痛みに顔を歪めながらも、葵を自分の胸に強く抱きしめながら力が抜けていく身体が傾いて行くのがわかった。


「……いたたた」


葵の声が頭上から聞こえた。

地面に叩きつけられて痛いはずの身体は背中の痛みで何も感じない。

温かくて柔らかい何かの上にうつ伏せになっているようだ。

とりあえず、自身に魔法を放とうとするがそれをするための腕すら動かせない。


「っ……アイル!!」


すると、頭上から自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

それは、自分から強制的に言わせたものではなく、彼女自身から放たれた言葉であり、この状況なのにも関わらずじわりと心が温かくなっていく。


(……今、この状況で言います?)


少し口角を上げながら心の中で笑った。

そして、頑張ってうっすらと目を開けると、視界の隅に血が流れながら地面に血溜まりを作っていく様子が見て取れた。


「どっどうしてこんな事に……このままじゃ血が足りなくなって……」

「……ですか?」

「え?」


葵が慌てふためいている言葉を聞きながらアイルは呟いた。

葵は瞬時に大人しくなりアイルの言葉を待ってくれている。

自身の身体を支えてくれている葵の瞳が揺れている。そんな顔をさせたい訳ではなかったのですがと考えながらも、こんな状況になっても葵と近い距離にあることに嬉しく思っている自分がいた。


「この状況で…名前、呼ぶのですか?」

「っ……」


アイルのその言葉に同様を見せる葵。

それもそうだ。

こんな状況なのに名前の事を話すなんて呆れているに違いない。

でも、わたしからしたら強制で言わせたのではない、葵さんからのその言葉がどんな状況だろうと嬉しい。

そんな事、葵さんは知りもしないのでしょうね。


「…その話は後で沢山聞きますから!今はすぐにでも治癒の魔法を……」

「……大丈夫です」

「え?」


葵のその申し出にアイルは拒否をした。

その気持ちは嬉しいが、今はダメだ。ただでさえ魔力の消費をしているのにこんなことに魔力を使って欲しくない。

それにー

そう考えているアイルに葵は声を荒らげた。


「なんで止めるの!?このままだと貴方は助からないんですよ!?あたしは自分の怪我は治せないけれど、自分以外の傷ならどんなに瀕死な状態だろうと治せるんです!だから……!」

「……今なら、殲滅…できるのでは?」

「……え?」


表情を歪めながら、アイルはゆっくりと言葉を発する。そう……今ならできるはずだ。

不可抗力であるにしろ今のこの状況でならできるはず。

アイルは力強い瞳を向けて葵に言った。


「葵……さん、今なら殲滅……できる、は……ずです」

「っ……」


アイルのその言葉に葵は目を見開いていく。

当たり前だ。

事情など何も知らされていないのにも関わらず、知ったような口をきくのだから。

だが、そういう反応をするという事はアイルの考えている事は大方当たっていると言うことになる。

不可抗力ではあれど、葵以外の人が怪我をした。

それならあとは葵自身の問題である。

と、葵は揺れる瞳でアイルを見ながら言った。


「…………貴方は……アイルはこうなる事を予想していたのですか?アイルが強い想いを向ける相手になると確信して…?」

「半信半疑ですよ。わたしは葵さんには嫌われている……ので賭けに出てみました」


あははと軽く笑っていると葵の目に涙が溜まっていくのがわかった。

何故そこで涙が出るのか分からないけれど、自分が泣かせてしまったと思ったら心がモヤモヤした。

泣かせたい訳ではない。葵さんにはいつなん時も笑顔でいて欲しいと思っている。


それに、強い想いを向ける相手と断言されては普通にアイルも戸惑ってしまう。

アイルはあくまで怪我をしたら悲しむ程度に思っていたので、まさかそんな風に言われるとは考えていなかった。

普通に嫌われていると思っていたのだが、どうやら違ったようだ。


それから、賭けに出たなんて言ったがわざと怪我をするようなことは考えていなかった。

まさか、このような形で怪我をするとは思っていなかったので自分からしたらちょうどいいと思ったのだが、そんな思いも葵の沈んだ表情を見て吹っ飛んだ。


葵はアイルを見つめながら弱々しく口を開いた。


「どう……して……そんな賭け……」

「……葵さんを、ずっと考えていると……言ったではないですか」

「っ……」


遂にポロッと涙が目から溢れ出た。

頬を伝い、葵の膝に載せているアイルの顔にぽとっと落ちた。


ーポァァァァァァァアアアアア


その瞬間、葵の周りが光出した。

葵から青白い綺麗な光が解き放たれ、眩しさのあまり目を瞑る。


アイルはこの感覚と光景に見覚えがあった。

そう、師匠と葵を影から見ていた時、急に光ったあれだ。


目を開けると、強い光は収まっており、光輝いているその結晶らしきものが、洞窟の中に降り注いでいた。

宝石が空から降っているみたいにキラキラと輝いているその結晶は確かにあの時見たものと同じだった。

初めて見るその光景に心が踊ったのを覚えている。


そして今まで目の前にいた、熊のアンデッドや、拘束されていたアンデッド達、瘴気によってどんよりしていた洞窟内が命を吹き返したように明るくなっていた。

そして何より、実感したのが背中の傷だ。

強い光が光出した瞬間、とてつもない痛みを感じていた痛みがみるみるうちに引いていったのだ。

今の光の効果に、アンデッドを殲滅する以外にも治癒の効果があるのかと思いながら葵に視線を戻すと、あの時のようにぼーとしている葵がいた。

そんな葵に「葵さん」と声をかけた。


身体の痛みがなくなり、軽くなった口調でニコニコしながら言った。


「…葵さん、よく頑張りましたね」

「…………」


その言葉に葵の目にはまた涙が浮かんできた。

どうして泣くのか分からずアイルは内心あたふたしている。

ただ、先程の涙と今の涙が違うことはアイルでもわかった。



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