謝肉祭(四)
映写室の高みから、支配人の黄泉野完結はその光景を静かに見下ろしていた。彼の傍らには、古風な大型映写機が据え付けられている。しかし、その機械に装填されているのは通常のフィルムではない。客たちの傷口から吸い出された紫色の霧が、レンズを通じて1コマ1コマの光の帯となり、リアルタイムでスクリーンへと映像を送り出しながら、透明なリールに巻き取られているのだ。
「素晴らしい。実に素晴らしい」
黄泉野はうっとりと目を細め、胸ポケットから一枚のハンカチを取り出して手指を拭った。
「絶望、恐怖、悔恨。それらが最も純度の高い状態で混ざり合った時、命というフィルムは美しく現像される。リアルタイムで紡がれる皆様の苦悶こそが、この館を永遠に存続させる至高の糧なのです」
観客たちの抵抗は、もはや蚊の泣くような声にしかならなかった。足元から這い上がる影は、人々の肉体を内側から侵食し、意識を暗闇の渦へと引きずり込んでいく。スクリーンに映し出される映像の中の自分たちが、一人、また一人と動かなくなっていく。生き残った数少ない者たちも、スクリーン上で隣の者が絶命していく瞬間を突きつけられ、完全に自我を失って、ただ茫然と死を待つだけの存在となっていた。
ホール内を埋め尽くしていた狂乱の叫びは、次第に途絶えつつあった。
残されたのは、魂を失い抜け殻となった肉体の山と、それらを着実に咀嚼し、消化していく劇場内の壁面。床一面に広がっていた黒い粘液は、役目を終えたかのように静かに引いていき、あとに残されたのは骨と衣服の破片だけだった。
正面の巨大スクリーンには、絶命した客たちの虚ろな表情や、静まり返っていくホール内の凄惨な異様さが、なおも高精細な映像としてリアルタイムで映し出されている。そして、観客の息絶える瞬間の映像がゆっくりとノイズに包まれ、暗転していくとともに、スクリーンもまた青白い光を失って静かに沈黙した。




