謝肉祭(五)
映写室では、カタカタカタ……と軽快な音を立てて映写機が回り続けている。
満杯になったリールには、先ほどまで生きていた観客たちの最後の瞬間と、スクリーンに投影されていたリアルタイムの苦悶が、色鮮やかな恐怖の記憶として克明に刻み込まれていた。彼らが感じた激痛、愛する者を置いて逝く絶望、自らの死を鑑賞させられる狂気――そのすべてが永久に劣化することのない光の結晶となって蓄積されたのだ。
黄泉野完結は映写機に近づき、愛おしそうにその金属の枠組みを撫でた。
「今夜の試写は謝肉祭にふさわしい、実に見事な出来栄えでした。皆様の命の輝きと絶望のリアルタイム映像、しかと受け取りましたよ」
彼が小さく指を鳴らすと、ホールの肉壁がゆっくりと収縮を止め、元の豪華な壁紙と絨毯の質感を戻し始めた。座席の拘束も解け、まるで何事もなかったかのように静寂が訪れる。ただし、そこに座っていたはずの観客たちの姿はどこにも存在せず、スクリーンの白い幕だけが静かに静観していた。
カチリ、と音がして、ホールの天井に柔らかな照明が灯った。
重厚な防音扉が静かに開き、外のロビーから冷たい風が吹き込んでくる。館内には再び、映画館特有のほのかなポップコーンの香りと、薄甘い薬品の匂いが漂い始めた。
黄泉野はゆっくりと階段を下り、誰もいなくなった試写室の壇上へと戻った。彼は乱れた髪を指で整え、一礼する。
「当館の映画に、エンドロールはございません。なぜなら、一度足を踏み入れたお客様の恐怖はリアルタイムで刻まれ、この館に眠る膨大なフィルムの中で永久に上映され続けるのですから……。その中から選りすぐりの絶望を厳選し、新たなる客へとお見せすることこそが、この支配人たる私の務めでございます」
劇場の外では、次の上映時間を待つ新しい客たちが、看板を見上げながら談笑していた。若者のグループ、仲睦まじいカップル、一人でやってきた映画好きの少女。彼らは何も知らずに、券売機へと並んでいる。
支配人はゆっくりとチケットカウンターへ向かい、ガラス越しに訪れた人々へ、完璧で温かみのある笑みを向けた。
「いらっしゃいませ。怪異館シネマシアターへようこそ。本日は一周年記念と題し、謝肉祭にふさわしい極上の恐怖をご用意して、皆様をお待ちしておりました」
こうして、終わりなき惨劇の幕が、再び上がろうとしていた。出口のないこの劇場で、次の「フィルム」たちは、自らの惨劇が上映されるスクリーンへと静かに足を踏み入れてゆく。(了)
怪異館シネマシアターを最後までお読みくださり誠にありがとうございます。
このたび、正式に完結するための章「謝肉祭」を追加いたしました。
予定よりも早く完結に向けて制作にあたることができ嬉しく思います。
怪異館自体は築年数の古い建物で、支配人の黄泉野完結が手を加えたことにより、昔ながらのフィルムにより内部が構成され、来場してきた客の恐怖を養分とする生簀の役割を担うようになりました。
観客たちの叫びや絶望がフィルムとして刻まれ、劇場そのものを維持し続ける……そんな果てのない恐怖のループを描き切ることができ、作者としても非常に思い入れの深い作品となりました。支配人の仕掛けた真の試写会を、皆様にも臨場感とともに楽しんでいただけていましたら幸いです。
本作はこれにて正式に完結となりますが、スクリーンが暗転したあとも、皆様の心の中に怪異館の異様な気配が少しでも残ればこれ以上の喜びはありません。
また次の物語でお会いできることを心より楽しみにしております。




