謝肉祭(一)
――怪異館シネマシアターの完結へ向けて――
怪異館シネマシアターの試写室に漂う空気は、あまりにも冷ややかだった。
ホラー映画の愛好家や批評家たちが集められたその場所で、壇上に立つ支配人、黄泉野完結は静かに口を開く。彼の仕立ての良いスーツと整った面立ちとは裏腹に、その両眸には深い闇のような陰影が落ちている。
「本日は当館における謝肉祭! 一周年記念と題しましてお送りいたします。私は常々こう思っております。ホラーにおいて、救いという油断は提供してはならない、と。それゆえに本日皆様方に提供いたしますものは、当館に来館したことを、底知れぬ恐怖とともに後悔していただくことです」
支配人の迷いのない語り口に、場内にはかすかな苦笑と困惑が広がった。過激な演出の予告か、あるいは一種のパフォーマンスか。フロントローに腰掛けた初老の男性客が、半ば呆れたように問い返した。
「それはつまり、後悔するほどの恐怖映像を提供していただけるということでしょうか?」
その問いに対し、黄泉野はゆるりと首を横に振った。彼が否定を示したその刹那、空気が急速に変質した。天井から降り注いでいた柔らかな照明が、まるで生気を失ったかのように白く濁っていく。
首を振る支配人の動作ひとつに、客たちは言いようのない畏怖を覚えた。彼らは平静を保とうと精神的な予防線を張り巡らせ、座席から立ち上がる機会を逸したまま、次の言葉を待った。だが、黄泉野が紡いだのは、観客の認識を根底から覆す異様な宣告だった。
「映像? いいえ。皆様に見ていただくのは、録画された過去の記録などではない。今、この瞬間、皆様自身が物語の主役となり、刻まれていく絶望の記録です。私の怪異館は映画館などという甘っちょろい場所ではない。皆様の命というフィルムを現像し、永久保存するための槽なのです」
その宣言と同時に、劇場内の空気が急激に重くなった。空調が停止し、それまで微かに響いていた機材の駆動音や人の吐息すら、すべて吸い込まれるように途絶える。急激な気圧の低下に、鼓膜を直接圧迫されるような痛みが走る。




