銀幕の報復
灰色の瓦礫がどこまでも続く、救いのない世界。その中心で、男は自らの夢を支配しているという万能感に酔い痴れていた。目の前で瓦礫の陰に潜む怪異『飢餓残滓』。そのテカテカと光る不自然な皮膚、抉れた眼窩から滴る真っ黒な液体。すべてはスクリーンの中で見た虚構の再放送に過ぎない。そう自分に言い聞かせ、男は嘲笑を浮かべながら右手を伸ばした。
男がその忌々しい皮膚に指先で触れようとした、まさにその時だった。
「そこまでになさいませ」
鼓膜を直接撫でるような、低く、体温を一切感じさせない声が響き渡った。
男の指先が怪物の輪郭に触れる寸前、世界がガラス細工のように音を立てて粉々に砕け散った。凄まじい衝撃と共に男が弾かれたように目を開けると、そこは荒廃した異世界ではなく、見慣れた、だがひどく汚れた自室の風景だった。
安物のパイプ椅子の上で、男は激しい動悸と共に己の身体を確かめる。冷や汗が背中を伝い、心臓が早鐘を打っている。夢から覚めたのだという安堵感が胸をよぎったのも束の間、男は目の前の光景に息を呑んだ。
デスクの上に置かれたモニター。そこには、男が先ほど「怪異館」から持ち帰り、違法にアップロードしたはずの動画が映し出されていた。しかし、再生されているのは映画の本編ではなかった。
画面に映っているのは、劇場で隠し撮りに耽っていた自分自身の背後からの姿。そして、その背後にぴったりと張り付き、男の耳元で冷たく光るマイクを握り締める「支配人」の姿だった。
「……ひっ!?」
喉の奥から乾いた悲鳴が漏れる。男が椅子を蹴り飛ばすようにして立ち上がると、そこにはモニターの中と全く同じ光景が現実として待ち構えていた。いつの間にか、部屋の隅に黄泉野完結が立っていたのだ。




