規約違反のプログレスバー
安物のパイプ椅子に深く腰掛け、男は青白く発光するモニターを凝視していた。
「サイトはそこまで不気味ってわけでもないんだな。作品紹介欄も見やすい。……ユーザーのコメントはこちらね。どれも似たり寄ったりだが、概ね高評価ってとこだな。わかる。あれは感覚的に来るものがあった……」
独り言を漏らしながら、男はマウスのホイールを回す。怪異館の公式サイトは、支配人のあの古風な装いとは対照的に、機能的で洗練されたデザインをしていた。それがかえって、あの劇場の異質さを際立たせているようで気味が悪い。
「ほんじゃまぁ、サイトのリンクをコピーしてっと。こちらをアップロードしちゃいますか。みんなの反応が楽しみだなぁ……」
男の手元には、劇場で密かに回していた小型カメラがある。法を犯してまで手に入れた「恐怖」の対価。それをネットの海に放流し、承認欲求という名の安っぽい快楽に変換しようというのだ。
アップロードのプログレスバーが右端に到達するのを確認し、男は大きく伸びをした。
「よし、アップしたし寝るか」
――ふと気がつくと、男は見覚えのある灰色の世界に立っていた。
「ここは? どこかで見たような景色だな。……今日見た映画と似てるような……」
煤を固めたような空、崩れた瓦礫の山。鼻を突くのは、肉の脂が焦げたようなあの吐き気を催す紫煙の臭いだ。
辺りを見渡すと、瓦礫の陰から「それ」が顔を出していた。不自然にテカテカと光る皮膚、抉れた眼窩。紛れもなく、あのスクリーンの中で暴れ回っていた化け物――『飢餓残滓』である。
「まさか夢に出てくるとか。……確かに強烈だったけれど、夢だし、戦えば勝てるでしょ。俺の夢なわけだし」
恐怖よりも好奇心が勝った。ここは自分の脳内であり、主導権はこちらにあるはずだ。男は無敵の万能感に背中を押されるように、自ら化け物へと歩み寄る。
「俺の夢にしては質感や臭いもなんかリアルだな。あれ? そういや夢の中で、臭いってしたことあったっけ?」
疑問が脳裏をかすめるが、足は止まらない。一歩踏み出すごとに、ザリ、ザリと乾いた音が響く。至近距離まで近づいても、飢餓残滓は瓦礫の陰からこちらをうかがうだけで、一向に動く気配がない。
「普通こういう夢って襲ってくるもんじゃないの? ……じゃあ、先手必勝と行きますか」
男は足元から手頃な大きさの瓦礫を拾い上げ、化け物の頭部めがけて思い切り投げつけた。
ゴッ。
鈍い音がして、瓦礫は確かに命中した。だが、怪物は怯むどころか、微動だにしない。ただ真っ黒な眼窩でじっと男を見つめ続けている。
「効いてない? そもそも造り物だったりする? ……触って確かめてみるか……」




