黄泉野完結からのお願い
映像がゆっくりとフェードアウトし、再び完全な闇が訪れる。
スクリーンの中央に、血の滴るような筆致でタイトルが浮かび上がる。
『飢餓残滓』――完。
静寂が劇場を包み込む中、その文字もまた闇に溶けるように消えていった。
数秒の重苦しい余韻。
やがて、天井の隅から琥珀色の照明がじわじわと灯り始め、足元が確認できる程度の明るさがホールに戻る。
その微かな光に導かれるように、無機質な銀幕の前にスッと一人の人影が現れた。
支配人、黄泉野完結である。
彼はマイクを握り直し、深々と一礼した。
「当館の一作目『飢餓残滓』をお楽しみくださり、誠にありがとうございます。……さて、ご気分のすぐれない方はいらっしゃいますか?」
支配人は客席をゆっくりと見渡す。その眼光は、観客の動揺を愉しんでいるかのようにも見えた。
「……大丈夫のようですね。左様でございますか。皆様、実にお強い精神をお持ちだ。このあと1時間はロビーを開放しております。しばし悪夢の余韻に浸るのもよし、恐怖の感想を語り合われるのもよし、どうぞご自由にお過ごしくださいませ」
彼はそこで一度言葉を切り、細長い指を唇に当てた。
「ただ一点、お願いがございます。まだ来館されていない方への『ネタバレ』はどうかお控えください。地獄の全貌は、自らの目で確かめてこそ価値があるものですから。それともうひとつ。皆様の胸に渦巻くその感情を、ぜひ私共へお聞かせください。当館の公式サイトでは、作品への感想やご要望を随時受け付けております。鮮烈な記憶が薄れぬうちに、そちらへコメントをいただけますと誠に幸甚に存じます」
支配人は再び優雅に、だがどこか慇懃無礼な空気を纏って頭を下げた。
「なお、来月の上映予定作品につきましても、追って情報を公開いたします。次なる演目は『監視遺物』。上映一週間前にはサイトに詳細を掲載いたしますので、どうぞお見逃しなきよう。……それでは皆様、出口までお気をつけて。当館の闇が、皆様の夢の中にまで寄り添わんことを」
支配人の姿が影に溶けるように消えると同時に、ロビーへと続く扉が重々しい音を立てて開かれた。




