飢餓残滓(三)
――気がつくと、視界は白色灯の光る真っ白な天井に変わっていた。
まぶしい光。
あの激痛は今でも脳に鮮烈な残像として焼き付いている。
「気がつきましたか? 大丈夫ですよ、落ち着いてくださいね」
看護師の穏やかな声に導かれ、震える手で隣のベッドを仕切るカーテンを開ける。
そこには、悠真、菜緒、大樹が並んで横たわっていた。
彼らは無事だった。……ただ、その表情を除いては。
目を見開き、喉が枯れるまで叫んだような絶望の顔で固まっている。
そして、彼らの肌。
入院着から覗く腕や足には、肉を抉り取るほど深く、びっしりと「人間による歯型」が刻み込まれていた。
「……え? なに、これ……」
どろりと、口の中に鉄臭い感触が走る。
耐えきれず床に吐き出したのは、血混じりの唾液だけではない。
悠真が着ていたジャケットのボタン。
菜緒が大切にしていた銀の指輪。
あるいは――自分のものではない、指の先端のような肉塊。
脳裏に、あの奈落の景色がフラッシュバックする。
暗闇に浮かんだ、無数の巨大な口。
あれは化け物などではなかった。
生存本能という名の理性を切り離し、「飢餓」そのものに変貌した自分自身の口だったのだ。
「傷は浅いですから、すぐに退院できますからね」
背後で、看護師が淡々と事務的な声をかける。
ガチガチと鳴り止まない自らの歯を、今度は自分の意思で、喉が裂けるほどの悲鳴とともに食いしばった。
「ひぃ!……いぎぎぎぎ……い、い、いやあ!」
その悲鳴さえも、あの凄惨な咀嚼音に重なって聞こえた。
クチャ、グチャ、バリバリバリ……。
クチャ、グチャ、バリバリバリ……。
ジュル、クチュ、バリボリバリ……。
バリボリバリ、バリバリバリッ!
ゴクン……。
【ごちそうさまでした】




