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怪異館シネマシアター  作者: 弌黑流人


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5/8

飢餓残滓(三)

 ――気がつくと、視界は白色灯の光る真っ白な天井に変わっていた。

 まぶしい光。

 あの激痛は今でも脳に鮮烈な残像として焼き付いている。


 「気がつきましたか? 大丈夫ですよ、落ち着いてくださいね」


 看護師の穏やかな声に導かれ、震える手で隣のベッドを仕切るカーテンを開ける。

 そこには、悠真、菜緒、大樹が並んで横たわっていた。


 彼らは無事だった。……ただ、その表情を除いては。

 目を見開き、喉が枯れるまで叫んだような絶望の顔で固まっている。


 そして、彼らの肌。

 入院着から覗く腕や足には、肉を抉り取るほど深く、びっしりと「人間による歯型」が刻み込まれていた。


 「……え? なに、これ……」


 どろりと、口の中に鉄臭い感触が走る。

 耐えきれず床に吐き出したのは、血混じりの唾液だけではない。

 悠真が着ていたジャケットのボタン。

 菜緒が大切にしていた銀の指輪。

 あるいは――自分のものではない、指の先端のような肉塊。


 脳裏に、あの奈落の景色がフラッシュバックする。

 暗闇に浮かんだ、無数の巨大な口。

 あれは化け物などではなかった。

 生存本能という名の理性を切り離し、「飢餓」そのものに変貌した自分自身の口だったのだ。


 「傷は浅いですから、すぐに退院できますからね」


 背後で、看護師が淡々と事務的な声をかける。

 ガチガチと鳴り止まない自らの歯を、今度は自分の意思で、喉が裂けるほどの悲鳴とともに食いしばった。


 「ひぃ!……いぎぎぎぎ……い、い、いやあ!」


 その悲鳴さえも、あの凄惨な咀嚼音に重なって聞こえた。


 クチャ、グチャ、バリバリバリ……。

 クチャ、グチャ、バリバリバリ……。

 ジュル、クチュ、バリボリバリ……。

 バリボリバリ、バリバリバリッ!

 ゴクン……。


 【ごちそうさまでした】

 

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