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怪異館シネマシアター  作者: 弌黑流人


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4/8

飢餓残滓(ニ)

 静寂を切り裂き、瓦礫の向こうから「それ」が姿を現した。


 一度焼けて溶けた後に冷え固まったような、不自然にテカテカと光る皮膚。手足が異常に長く、折れた骨を無理やり繋ぎ合わせたような四肢が、あり得ない角度で地面をガリガリと引っ掻いている。


 「飢餓残滓」


 その言葉が、耳元で照射されるような音響と共に字幕として脳裏にこびりつく。


 抉れた目の穴から真っ黒な液体を涙のように滴らせる怪物が、チャプという小さな音に反応し、レンズを真っ直ぐに射抜いた。


 「……っ、ひっ!」


 蜘蛛のような速度で地面を掻きむしり、迫り来る肉塊。

 全力で逃走する主観映像。激しく上下する視界の中で、ボトル缶が揺れて鳴るたびに、背後の「ガリガリガリ!」という爪音が距離を詰めてくる。

 熱い吐息と、焦げた肉の死臭がすぐ後ろまで迫り、観客は背後に気配を感じるほどの錯覚に陥る。


 【ワ ケ ロ】


 閃光のように文字が脳裏をよぎる。

 半狂乱の叫びと共に、ボトル缶が闇へと放り投げられた。


 カラン、カラン……!


 水音が遠ざかるのと引き換えに、怪物の気配が逸れる。瓦礫の陰に倒れ込むと、突如として足元の地面が内側に吸い込まれ、底なしの「穴」が開いた。

 落下が始まる。

 視界が高速で回転し、耳の奥では何千もの陶器の食器が砕け散るような轟音が渦巻く。


 【お前は、気づくべきだった】


 嘲笑するような重低音の声が、サラウンドスピーカーから頭の中に直接流れ込む。


 【「ワケロ」は脱出のコードではない。ここは深淵。これは単なる「食卓のマナー」だ】


 視界の端で、捨てたはずのボトル缶が何百と剥がれ落ちていく。

 落下した先。真っ暗な闇の中に、無数の「何か」が蠢いているのが見えた。

 それは、スクリーンを埋め尽くさんばかりの巨大な「口」の群れだった。


 【いただきます】


 黄色く濁った牙、人間の腕ほどもある太い紫色の舌が、ご馳走を待ち侘びるように一斉に開かれる。


 クチャ、グチャ、バリバリバリ。


 凄まじい咀嚼音が劇場を支配する。


 「いやだ! やめて、やめてえええええ!!」


 懇願する絶叫も虚しく、映像は無慈悲にその「捕食」を映し出す。


 バリバリバリッ!


 左足が根元から噛み砕かれ、血管が引きちぎられる凄まじい音が脳を突き抜ける。

 腰の骨に牙が食い込み、粉々に砕ける衝撃音。

 見開かれたままの瞳に、自分を貪る化け物のドロドロとした喉の奥が映し出され……。

 プツリ、と映像が途絶えた。


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