死線からの報酬
薄暗い照明が、金庫の扉に鈍く反射している。俺は明日などないという思考を常に抱き、汚れ仕事を好んで引き受けてきた。気がつけば、いつの間にか伝説の殺し屋などと呼ばれている。
伝説。殺し屋。ふざけた響きだ。
汚い仕事に仰々しい屋号をつけ、挙句の果てには美化までしてくる世間に対して、呆れを通り越した嫌悪感を覚える。殺しという仕事に誇りなどない。俺にとってそれは、生き抜くために選んだ、ただ手っ取り早く稼げる手段にすぎなかった。褒められた生き方ではないことなど、百も承知している。
それでも、俺はこの仕事以外に興味を持たなかった。標的の背後へと忍び寄り、至近距離から一撃で終わらせる。ただ、それだけ。標的以外には気づかれず、無関係な者は殺さず、傷つけず。己に課した鋼の掟を守り、これまで刃の上を歩くように生きてきた。
だが、正直に言えば飽きてしまった。だから、この飽きという感情自体を殺すことに決めた。俺は自分自身に懸賞金をかけ、世界中の命知らずに自分の命を狙わせたのだ。終わりのない命のやりとりを繰り返しているうちに、いつの間にか組織のボスの座に据えられていた。
理解が追いつかない。どのような成り行きでこうなったのか、記憶すら定かではない。そんな矛盾を抱える俺の日課は、数え揃えた現金を部下たちに手渡すことだ。
今どき現金払いなど時代錯誤だと笑われるかもしれない。だが、手に触れる重みが重要なのだ。金の重みが命の重みとまでは言わない。それでも、自らの手で奪った命の対価を現物として受け入れることこそ、俺がこれまで狂わずにやってこれた唯一の理由だった。
「受け取れ」
月末の儀式と部下たちが呼んでいる報酬の分配を、今夜も始める。自室に戻り、信頼する部下の一人に金庫を開けさせ、俺に今月の報酬を渡させる。いつもならそれで、儀式は終わるはずだった。
窓際に立った部下から現金の束を受け取った、その瞬間だった。
乾いた音が響き、窓の強化ガラスを粉砕し、目の前の部下の頭部が弾ける。ガラスが飛散る中、俺は反射的に部下の身体を受け止め、そのまま壁の影に隠れるようにしゃがみ込んだ。
部下は即死だった。両手を胸の前で組ませ、静かに瞼を閉じてやる。どうやら暗殺者は俺と間違えて彼を射殺したらしい。俺への懸賞金は、まだ有効なままだった。久方ぶりの油断。有能な部下を、俺の事情に巻き込んで死なせてしまった。
……いや、待てよ。このままこいつが俺として死んだことにするのもありか、……ああ、そうしよう。都合のいいことに頭は顔を含め大部分が吹き飛んでいる。
ほんの数秒で決断を下し行動に移す。
体格に大差はない。服を着替えさせるのは一苦労だったが、死体と俺を入れ替える作業を終え、俺は緊急の一報を屋敷内に飛ばした。声帯を指で圧迫し、さっきまで生きていた部下の声色と話し方の癖を模倣する。
「緊急事態だ。ボスが狙撃された。狙撃手を逃がすな。繰り返す、向かいの屋上からの狙撃だ。各自、捜索にあたれ」
ここで射殺されたと断定してはならない。今のうちに隠し通路から退散するとしよう。金ならある。次こそは、殺し以外の趣味を見つけて、のんびりと暮らそう。




