錆びついた死線(十一)
世界の境界が崩壊する音。スクリーン上の都会の夜景が、深い霧に包まれた遊園地へと溶けていく。
女の叫びは、錆びた歯車が回る軋み音へと変換される。組織の男たちの怒号が遠くで鳴り響くが、それは次第に歪んだオルゴールの旋律へと飲み込まれていく。
女を襲った衝撃は、肉体的な苦痛を超え、彼女の全存在を削り取る削岩機の振動となって観客の椅子を激しく揺さぶる。男だった怪物の顔は、脂粉と泥が混ざり合い、真っ赤なゼロの形へと変化する。
(……私の人生は、ただの演出だったの?)
彼女の脳裏に、硝煙の匂い、孤独な夜の記憶、ライフルの感触がフラッシュバックする。スクリーンはそれらを激しい明滅で繋ぎ合わせ、彼女が見世物であったことを視覚的に証明する。
彼女の輪郭は、砕けた断面から乾いたおが屑を零しながら、木彫りの意匠へと固定されていく。背中を突き抜けるのは、真鍮の支柱。黄金色に輝く柱が彼女の背骨と重なり、虚空へと伸びていく。
(……あ、あ、ぁ……)
カメラは彼女の視点となって、天空の頂上で止まり、火を噴いて倒壊していく観覧車の無残な姿を映し出す。
彼女の意識は、快楽とも絶望ともつかない静寂の中へ沈んでいく。遠くで聞こえる子供の無邪気な笑い声が、劇場のスピーカーを通じて、かつての彼女の人生を切り捨てる。
「パパ、見て。このお馬さん、なんだか悲しそうな顔をしてるよ」
スクリーンは、メリーゴーラウンドの四番目の馬となってしまった女を映し出す。彼女の瞳には、かつてのスナイパーとしての光は消え、永遠に動くことのない虚飾の木馬としての静けさだけだった。
映像が馬の顔に少しずつスライドして、彼女の視線がカメラを――観客を見つめているかのように固定される。場内に鳴り響くオルゴールの旋律は、やがてノイズへと混ざり、暗闇の中に消えていく。
残されたのは、観客が自らの真実と虚飾について静かに問い直すための、深すぎる静寂だけだ。スクリーンは完全に闇となり、劇場の出口を指す青白い非常灯だけが、彼女が戻ることのできない現実の冷たさを暗示していた。
最後に、錆びついた死線の赤文字が浮かんで、瞬きを2回したかのようなノイズを起こしたあと、文字は暗闇へ滲むように消えた。




