錆びついた死線(九)
ピエロの鉈が空を切る音と、女が馬を回す「ギィィッ!」という金属音が激しく混ざり合う。スクリーンでは、火花が飛び散り、回転台が高速で動き出す。
一度、二度。馬を逆方向に回し切った瞬間、床が崩落する。ピエロの驚愕に満ちた表情がアップになり、その鼻の頭の汚れまでが鮮明に映し出される。
女は暗闇へと落下する。着地した地下通路は、青い発光塗料が不気味に浮かび上がり、整備用通路特有の冷徹な閉鎖感を醸し出している。壁に描かれた配線図を辿る主人公。その目はすでに、生存のためだけの強い意志を宿していた。
通路の先の行き止まりで上へとつながる梯子をのぼる。マンホールの蓋を静かに押し上げると、外は陽光が照りつけているが、それは温かい光ではなく、すべてを暴き出す冷たい光だ。
ピエロはゲームセンターの裏手で、鉈を弄びながら待ち構えていた。観客は、マンホールの蓋が少しずつ持ち上がる際の、金属が擦れる「キーッ」という音を耳にする。
女が飛び出す。最終決戦の幕開けだ。ライフルが火を噴く。一発目、ピエロの右手に握られた鉈が砕け散る。二発目、三発目。足が奪われ、ピエロは地を這う。その動きは、先ほどまでの優雅さとは裏腹に、醜悪で必死だ。主人公はピエロに肉薄し、銃身でその顎をかち上げる。
「おつかれさま」
その言葉はモノローグとして、エコーを伴わずに、観客の心に直接突き刺さるような低音で響く。左胸の核へ二発。ピエロの胸から眩いばかりの光が噴き出し、狂気の笑顔が歪む。最後の一発を弾倉に込め、ボルトを閉じる。カシャン、という金属音だけが、映画館の暗闇に鮮明に響いた。
銃口がピエロの口の中に深く押し込まれる。最後の一発。ドオォォン!という轟音が映画館を震わせ、ピエロの身体は無数の光の破片となって霧散した。それは、あまりに美しく、あまりに呆気ない幕引きだった。
スクリーンには、ピエロが消えた後の荒れ果てた遊園地の姿が映し出される。静寂。観客が固唾をのんで見守る中、地面に円形の開口部が現れ、清冽な光を湛えた改札口が顔を出す。女は、空になったライフルを握りしめたまま、その光の方を向く。
女の表情から、戦いの緊張感は消え去り、代わりに力のをすべて出し切った後の、空虚な表情が浮かぶ。カメラは、女の足元をクローズアップする。力なく、それでも一歩一歩、確かに光の中へと向かうその歩み。泥と血で汚れた靴が、綺麗な床に足跡を残していく。
改札口の向こう側は、出口なのか、あるいは次の世界なのか。それは定かではない。女の瞳には、かつての自分自身の虚像を捨て去った者特有の、静かな意志が宿っている。
女が光の中へと完全に飲み込まれた瞬間、映画館のスクリーンは真っ白な光に包まれ、やがて無音の中にゆっくりと暗転していく。




