錆びついた死線(八)
メリーゴーラウンドへ到達した女は、その回転台の中央に広がる数百もの鏡の迷宮に足を踏み入れる。
スクリーンの中には、赤いクレヨンで書かれた文字が、まるで意思を持つかのように浮かび上がった。観客には、主人公の呼吸が乱れ、肩が上下する様子が伝わる。
(昼よ、五回の値段を払え)
鏡の中の虚像が、ゆっくりと五本の指を立てる。主人公の左の手のひらに、ライフルの弾丸で傷が刻まれる。じわりと広がる血の赤が、白黒に近い廃墟の色彩の中で異様な存在感を放つ。
血の滲んだ木片が投げられ、夜の闇に濃厚な死の香りが広がる。鬼が匂いを嗅ぎつけ、ドッ、ドッ、ドッと重い足音を立てて近づく。映画館の床が、その振動を観客の足元にまで伝えてくる。
女は、装飾的な木馬の陰で、ライフルの照準を合わせる。スコープ越しに見る鬼の姿は、闇に溶け込み、輪郭さえも曖昧だ。鬼は木片を拾い上げるために、その巨大な背中を大きく丸める。これは、唯一の死角。
五発の銃声が、映画館に轟音として響き渡る。パァン!と響く乾いた音は、一発ごとに座席を揺らす。鬼の心臓に光の粒子が溢れ、巨大な咆哮がスクリーンを埋め尽くす。光の中に溶け去る鬼。それに呼応するように、夜空が幕を引くように消滅し、濁った太陽の光がメリーゴーラウンドを貫く。
時間は「昼」に固定された。
主人公の荒い呼吸だけが、静かになった映画館に響く。しかし、安心する間もなく、背後から軽快で狂気じみた「カツ、カツ」という靴音が聞こえてくる。ピエロの出現だ。
床のメモに浮かび上がる新たな文字。
【5の光は、4のウソをさらした】
女は、すぐさま群れの中で最も地味で、首を垂れた「4」の馬を見つける。ピエロがメリーゴーラウンドへ跳躍する。その姿は、軽やかで、だからこそ最も残酷な死の気配を纏っていた。
「逃げちゃダメェ!」という叫び声が、映画館の前後左右、あらゆるスピーカーから重なり合って響き、観客を恐怖の渦へと引きずり込む。




