錆びついた死線(七)
ロッカーを少し押し開け、主人公は通路の壁面に張り巡らされた鏡たちと対峙する。スクリーンには、鏡に映るべき女の顔が映らず、代わりに過去の「虚飾」にまみれた醜い姿が次々と現れる。
パーティーでの卑屈な笑み、不必要な衝動買いを重ねる若き日の姿。それらが幻影となって鏡の中に揺らめく。
観客には、女がそれらを直視できずに顔を背けるクローズアップが映し出される。喉の奥で、小さく「うっ」と呻く声が聞こえる。これは過去の自分自身という、最も愚かな姿を突きつけられる苦痛。
その時、通路の端に落ちていた血塗れのメモが、主人公の注意を引く。彼はロッカーの扉をさらに押し広げ、手を伸ばす。その瞬間、床に落ちていた瓦礫が少しだけ動く。「カラカラ」という小さな音が、映画館の静寂を切り裂く。
女は息を止め、外の鬼の反応を窺う。鬼のハンマーが止まり、耳を澄ませているかのようなカメラアングルが、観客に強烈なプレッシャーを与える。
【倒さない方がいい。アイツの値段は、5】
女の意識が、残弾数へと向かう。手元のライフルの重みが、スクリーンを通じて観客に伝わる。弾丸の冷たさ、ボルトの噛み合わせの感触。それは、言葉以上の饒舌さで女の窮状を物語る。
選択の時。
夜の鬼を倒せば昼が永遠に固定され、あのピエロとの死闘が始まる。昼のピエロを倒せば夜が続き、この鈍重だが圧倒的な力を持つ鬼と暗闇で向き合うことになる。
女の表情が、硬い決意へと変わる。
カメラが主人公の瞳のアップに固定され、瞳孔が開くのがはっきりと見て取れる。女は、昼のピエロを消すことを選んだ。
観客は、主人公が抱く微かな希望と、その裏にある底知れない絶望の重さを共有する。女は、鼻と口をハンハンカチで覆い、静かにロッカーを出る。
廃墟となった遊園地の夜は、一層深い闇に覆われている。メリーゴーラウンドへ向かうその背中は、観客の視線から逃れるように、地面を這い、影の深淵へと溶け込んでいく。
鬼の槌音が遠ざかり、代わりに夜風がメリーゴーラウンドの錆びた装飾を揺らす「キュルキュル」という音が、後方スピーカーから不気味に響き渡った。




