錆びついた死線(六)
巨大な観覧車のゴンドラが、鈍い軋みをあげて地上へと近づく。スクリーンの大写しになったのは、地面を埋め尽くすほどの土埃と、無慈悲に巨大な槌を振り下ろす「鬼」の姿だ。観客は、鬼の視線がゴンドラの影をなぞるように動くのを感じる。
サラウンドスピーカーからは、金属が引き裂かれる「ギィィィィ」という高周波の音が背後から回り込み、観客の背筋を凍らせる。
主人公は、ゴンドラが地面に接触する寸前、音もなく飛び降りた。その着地は完璧なまでに無音だが、スクリーンの映像は主人公の荒い呼吸を克明に映し出す。
ハンカチを噛み締めて必死に鳴動を抑えるその顔面は、極度の緊張で蒼白だ。女の視点は、アスファルトの熱を足裏に感じながら、影から影へと滑るように移動する。
観客には、主人公のモノローグがエコーを伴って聞こえる。
(……鬼はまだ、私が箱の中にいると信じ込んでいる。今のうちに、距離をとって……)
目標はお化け屋敷。巨大な肋骨のオブジェが、暗闇をより深く見せている。鬼が空のゴンドラを支柱ごとへし折る衝撃音が、映画館の重低音スピーカーを限界まで震わせる。地響きの中で、主人公は骨の門を潜り抜け、闇の内部へと消えた。
スクリーンは、女の瞳に映る、腐ったカビと埃の景色へと切り替わる。壁を伝う指先は震え、その震えが微かな摩擦音として観客の耳に届く。
奥へと進む女の呼吸が、映画館の正面スピーカーから漏れ聞こえる。それは、死の恐怖に支配された獣のそれだ。通路の隅、鉄製のロッカーに身を滑り込ませた瞬間、主人公の喉が「ヒュッ」と小さく鳴った。
鬼の歩みがすぐ外で停止し、ハンマーを地面に引きずる「ズズズ…」という音が、右から左へと移動する。観客はその音に合わせ、思わず肩をすくめる。
ロッカーのわずかな隙間から見える、錆びついたプレートの文字。そこに刻まれたメッセージが、女の脳裏に焼き付く。
【ドチラカをコワセバ固定スル】
(鬼とピエロは同一の存在。……昼と夜どちらかを選ぶ……)
女の瞳が激しく揺れ、額を伝う冷や汗が一筋、頬を滑り落ちる。その汗がロッカーの底に落ちる「ポタリ」という音が、静寂の中で強調される。
外では、鬼がまだ執拗に観覧車を破壊し続けている。観客には、主人公が決断を下すまでの数秒が永遠のように長く感じられた。




